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「えっと……あの……」
 突然の事に戸惑ったエリサ。だがディアナは責めるわけでもなくエリサに優しく微笑む。
「私は今からこの子と朝市に行くのですが、一緒に行きませんか?」
「で、でも……」
「今日は朝市に南国のフルーツが出回るそうですよ」
 どうして自分に声をかけ、誘ってくれるのかはわからないが、エリサは言われるがままディアナについていく事にした。
「大きな荷物を持ってますが、もしかして、家出でもしたのですか?」
「……はい」
「見たところ上質な服装なので、この辺りの方ではないですよね?」
「……はい」
 ただ返事をするだけだが、ディアナはエリサを不審がるどころか好意的な対応をしてくれる。
「あっ、ほら!あそこ」
 ディアナが指差す先。すでに人が並んでいるテントがあった。
「私買ってきますのでマルタをお願いします」
「えっ?あの!」
 そう言ってディアナの息子マルタをエリサに預けると、ディアナは列に並んでいく。預けられたマルタはまだ早朝で眠いのか、うとうとしている。
(もし子供を産めばこんな風に一緒にいるのよね)
 結婚当初に理想として描いた風景。だがそれは二度と叶わぬものだ。
 しばらく待っていると、袋を下げたディアナが戻ってきた。
「ちょうど売り切れ間近だったのでよかった。公園で食べましょう」


 再び公園へと戻ってきたエリサ。ディアナは買ったフルーツをエリサに渡す。
「南国のフルーツでパイナップルって言うらしいですよ」
 すでにカットされているそのフルーツは黄色い断面に緑のトゲっぽい皮が着いている。
「お母さん!酸っぱい!」
 パイナップルを口にしたマルタは、その酸っぱさに先程までの眠気は覚めたようだ。
 エリサも口にしてみる。確かに酸っぱいが今のエリサにはちょうど良い酸味だった。
「まだ熟しきってないのでしょうね。でもこういうのはなかなか食べられないからいい経験ですね」
 微笑むディアナを見てエリサは俯いた。
「どうして私に声をかけたのですか?」
「どうしてと言われても、大きな荷物を抱えて早朝の公園にいたら誰でも気になりますよ」
 この人はフリークの想い人であり自分達の仲を崩した人。だが崩れる前に成立もしていなかったのは事実だ。もしここで自分がレーエンスブル夫人で、その腹にはフリークとの子供がいると言ったらどんな反応をするだろうか。
 悪い気持ちが燻りながらも、ディアナという女性は気さくで、エリサの思っていた悪女のような雰囲気の人ではなかった。
「もし行くところがないのでしたら、私達の家に来ますか?」
「えっ?」
「ここは治安はそう悪くはないとは言っても、土地に詳しくないと犯罪に巻き込まれるケースもなくもないんです。行くところが見つかるまで来ますか?」
 何をどこまで察してくれているのかはわからないが、ディアナはエリサに寝床まで提供しようとしている。
「でも……そんなの悪いです」
「気にしなくていいんですよ。まぁ、私が働きに行く間、マルタの面倒を見てくれるとありがたいのですが」
 少しはにかんだ笑みを浮かべるディアナ。
 ディアナの家にはフリークも出入りしているのでは。それを考えると首を縦に振りづらかった。しかし行くあてがないのは事実だ。
「最近フリークも来なくなって寂しいんだ。お姉ちゃん来てくれる?」
 マルタの発言にエリサは目を丸くした。フリークは最近ディアナの家に行ってない?
「こらマルタ!すみません……最近親切にしてくれている方が遊びに来てくれないから拗ねてるんですよ」
「その方とは……」
「ただの知り合いです。そう言えば名前伺ってませんでしたね。私はディアナです」
「……エリサです……」
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