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 風呂から上がり、傷の手当を受けたエリサは、出されたハーブティを飲んでいた。
 リラックス出来るようよう、マルディアスなりの配慮なのだろうが、エリサの心はそんな事では晴れる事はなかった。
「エリサ様……」
「マルディアス様……」
 部屋に入って来たマルディアスを見たエリサだが、すぐ顔を逸らした。
 マルディアスはエリサの隣に座ると、震えるエリサの手を握った。
「何があったのか、聞いてもよろしいですか?もちろん言えなければ言わなくてもいいです」
「わた、しは……」
「急がなくてもいいです。ゆっくりで……」
 そう優しく言われ、エリサはボロボロと涙が溢れ出た。だがマルディアスは責めるでも、さらに優しい言葉をかけるでもなく、ただ隣にいてエリサの手を握っていた。
 しばらくの間、泣き続けたエリサは顔を上げマルディアスを見た。また溢れそうな涙を堪えながら、震える唇をゆっくりと動かした。
「わ、私は……マルディアス様に謝らなくてはいけません」
「謝られるような事など何もありませんよ」
「違うんです。私とマルディアス様の事、フリーク様に知られてしまって……」
 その言葉を聞いたマルディアスは眉をしかめた。
「それでレーエンスブル様から叱責を受けたのですね」
「そ、それもあります……けど……」
 何やら言いにくそうなエリサ。マルディアスは急かす事なく、エリサが自分の口から言うまで待った。だがいくら待てど言葉にしにくそうだった。
「今日はここまでにしましょう。そんなに思い詰めた表情をしていたら言葉も出ないでしょう」
「ま、待って下さい!私は……」
「いいですよ。そんなに慌てなくて……」
「そうではなく……私は、私は、もう……マルディアス様と一緒になる事は出来ません」
「どういう事ですか?」
 そう尋ねるとエリサは再び涙を流しながら俯いた。
「私はフリーク様に……」
 その先の言葉が紡げないでいると、「もういいです。言わなくても……」と言ってマルディアスはエリサを抱きしめた。
「怖かった……前まではそれを望んでいたのに……貴方を愛するようになって、それ自体望まなくなったのに……フリーク様に無理矢理……」
「エリサ様!」
 辛い思いをしたのだ。その心の傷は今日明日で癒えるものではない。下手をしたら一生の傷を負ったのだ。
「外出を禁じられたけど、でもマルディアス様に会いたくて……それで窓から……」
 だから体中に傷があったのだろう。そうまでして、必死に会いに来たエリサ。もうレーエンスブル家に返したくないと思った。
「貴女は帰らなくていい。ずっと私の元にいて下さい」
「でも……」
「地位や身分など関係ないです。こんなに傷ついた貴女を、あんな家に帰したくない!」
「私の事…‥汚らわしいとは思わないのですか?」
「思うわけない!貴女の心はいつも美しい。どんな事情があれど、私は貴女を愛しています」
 その言葉にエリサは涙が止まらなかった。抱きしめられたマルディアスの腕の中で、エリサは泣き続ける。

 
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