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 とある晩。珍しくフリークは屋敷に早く帰って来たかと思うと、エリサを書斎へと呼んだ。相変わらずの無表情を貫くフリークが何を考えているのかは読めない。だが行かないという手段はないので、エリサはフリークの元へと向かった。
「これはどういう事だ?」
 書斎の机に置かれた数枚の紙。それを手にしたエリサは目を丸くした。そこには調査書と書かれている。つまりエリサの行動を誰かが調査したという事だ。
「これは一体……誰が?」
「私が聞いているのはそんな事ではない。そこに書かれている事は事実なのかどうかだ」
 調査書に書かれているのはエリサが頻繁にルディア―ス家へ出入りしている事。そこで当主のマルディアス・ルディア―スと密会を重ねている事が書かれている。
「お前はこのレーエンスブルク家の妻なのだぞ。もしそれが真実ならばレーエンスブルク家にとって恥以外のなにものでもない!」
 珍しく声を荒げるフリーク。だがエリサはこの調査書が一体誰が調べたものなのかという一点にしか集中していなかった。
「聞いているのか?」
「…………」
「まぁいい。お前はしばらく屋敷から出る事を禁じる」
「そんな……」
「どうせ聖女の役目も今は控えているのだろう。挙句果てにスキャンダルだ。しかもマルディアス・ルディア―スとは……レーエンスブルクよりも下の者ではないか」
 どうしてこの人は人の肩書ばかりを気にするのだろうか。自分は外で庶民の女性を囲っているにも関わらず、自分には何一つ罪がないような言い方をして。フリークとの僅かに残っている糸も、エリサの中で完全に断ち切られた気がした。
「フリーク様だって……」
「何だ?」
「フリーク様だって、余所で女の人を囲っておいてよく人の事言えますね!」
「何を言っている。くだらん」
「くだらない?私はこの目で見ました!フリーク様が一般居住区に暮らすディアナって人のとこへ向かうのを!」
 そこまでの情報を言われ、フリーク自身黙り込んだ。おそらくフリークはエリサには知られていないとでも思ったのだろう。
「私との結婚は元々親同士の決めたものです。しかし夫婦としての役割を果たすどころか、フリーク様は聖女である私、ひいてはエデンワース家の名前にしか興味がないのでしょう?私が今日までどれだけ苦しんだかわかりますか?」
「もういい。黙れ」
「いいえ!今だから言わせてもらいます。私が間違いを犯したのは全てフリーク様のせいです!マルディアス様はとても優しい方です。フリーク様が私に与えて下さらない一切の物を与えてくれるのです!」
「なんだ金か?なら用いして……」
「違います!私が欲しいのは愛です!本当は夫であるフリーク様から欲しかった。でもそれが望めないのなら、私は聖女じゃなくても構わない。フリーク様と離縁してマルディアス様と一緒になりたい!」
 もうこんなのは嫌だ。これまで声を荒げる事がなかったエリサの目からは大量に涙を流していた。するとフリークは椅子から立ち上がりエリサの前に立つ。
「なんだ。夫婦としての証が欲しいのか?なら与えてやる」
「い……嫌!触らないで下さい!」
 エリサの手を力強く握ったフリーク。その手を払おうとしたエリサだが、力では叶わない。
 こんな形をエリサは望んでいなかった。無理やりに与えられたものなど、エリサは求めていないのだ。
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