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 姉セリカにはマルディアスとの逢瀬を控えるように言われた。だが芽生えた恋を止める手立てなどなく、会えない日々は強く相手を想うようになった。
 結婚当時、あんなにもフリークに夢中で、どうにかしてこちらにめをむけてほしかった自分が嘘のようだ。今は夫であるという感情以外に何かを感じる事はない。
 おそらくフリーク自身もエリサに対してこういう感情を抱えていたのだろう。
「マルディアス様……会いたい」
 ボソリと呟いたエリサの願いは、自室から外へ漏れる事はない。いつまで待てばいいのか。マルディアスは今何をしているのか。日増しに強くなる気持ちは、次第に姉セリカとの約束を破る事となった。


「マルディアス様!」
 一週間ぶりにルディアース家へとやって来たエリサは、マルディアスと抱き合った。
「エリサ様。この一週間が長かったです」
「私もです。この一週間が永遠にも感じられました」
 どちらともなく唇が合わせられる。愛する人といられる事。こうして唇を合わせられる事がとても嬉しい。
「セリカお姉様から、ここに来る事を控えた方がいいと言われましたが、そんな事、私には無理です」
「私もですよ。エリサ様とずっと一緒にいたいです」
 出会った時にはなかった大胆さ。こうして恋に溺れると人は変わるものなのだと思った。
「ですがエリサ様の姉君の言う事も一理あります。人の目というのはどこにあるかわかりませんからね。それでなくとも我々は貴族です。社交界でこんな事がスキャンダルとなれば、好機の目にさらされます。私はいいですが、エリサ様には耐えられないかと……」
「私だって耐えてみせます!それに……全てを投げ捨ててでも一緒にいたいと言ったのはマルディアス様です。あれは嘘だったのですか?」
「嘘ではないです。側にいたいです。どんな事があろうとも」
「私も……聖女の資格を失ったとしても、この恋は逃したくない!」
 二人で過ごす時間が幸せではあるが、時々不安にもなる。いつまでもこの幸せが続くのか?もしこの先に何か起こった時、二人はどうなるのか。


 それから咳を切ったかのようにエリサは三日と空けずマルディアスに会いに行った。
 会えば抱きしめ合い、キスをし、愛をささやき合う。いつしかこの人に抱かれたい。そんな風に思うようになった。
「私は人妻ではありますが、マルディアス様と契りを交わしたい」
「それは私もです。けどそれだけはまだダメです」
「どうして?」
「そうすれば私はこの屋敷に貴女を閉じ込めます。二度とレーエンスブル家へ帰しませんよ」
「私はそれでも……」
「嬉しい申し出ですが、こればかりは倫理の問題です」
 最後の一線だけは越えない。それがこの恋の決まりなのだとしたら、エリサはフリークとの離縁を望む。
 だがそれより先にこの恋がフリークに知られる事になる。
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