上 下
13 / 91

13

しおりを挟む
 待ち合わせたのは上流階級の人間が懇意にしている個室ありのカフェ。ここでは秘密裏に会合をしたりする政治家などもいると言う。
 政治家だはないが、エリサも口外出来ない内容との記載をし、姉セリカに文を出した。そしてセリカからこのカフェを指定された。
「ごめんなさいね。遅くなって……」
 待ち合わせに少し遅れてやってきたセリカに「いえ、大丈夫です」とエリサは言った。
「子供をバレエに連れて行ったら奥様達に捕まっちゃったから」
 こう見えてもセリカは二児の母だ。セリカも、長女オリカも親の決めた結婚とは言え、二人共夫婦仲睦まじくやっている。
「それで?話とは何?」
 店員にアイスコーヒーを注文したセリカが、思い詰めた表情のエリサから話を聞く。
「お姉様……実は私とフリーク様はまだ夫婦の契りを交わしていません」
「何ですって?貴方達結婚して何ヶ月経つの?もしかしてフリーク様は使い物にならないとか?」
「そうではなく……」
 本来迎えるはずだった初夜の日から今日まで、指一本どころか、夫婦の会話もない事、エリサに無関心である事などを話した。
「まぁ……それでは我がエデンワース家に失礼ですわ!」
「フリーク様が私に関心がないのは、フリーク様には心に決めた方がいるからです」
「それはどういう事?」


 全てを話し終え、セリカは言葉をなくし複雑そうな表情を浮かべていた。
「これはエデンワース家に対して最大の侮辱と捉えますわ」
「セリカお姉様……」
「この話は持ち帰りお父様に相談します」
「まっ、待って下さい!」
「何?これだけ馬鹿にされてまだ庇うのですか?」
「違います。確かに夫婦としては破綻していますが、罪は私にもあります」
「どういう事?」
「私は……夫がいる身で他の男性を愛してしまいました」
 次々と出てくる衝撃の言葉に、セリカは言葉が出なかった。当のエリサは涙を流しながらセリカに訴える。
「あの方はフリーク様から頂けなかった愛を私に与えてくれます。優しくいつも迎え入れてくれて……もしこの方と結婚していたら、自分は違った人生をあゆめたのではと思いました。それに……今のままでもそうでなくても、私は聖女としてな力を失うかもしれません」
「なんて事を……」
「ではどうやったらあの方と一緒になれるのですか?フリーク様はエデンワース家の力、聖女である私さえいればいいのです。けれどその力も失われた?」
「あなたはどうしたいの?」
「例え力を失ったとしても、あの方と一緒にいたい……」
 頭が痛くなってきたセリカは、頭を抱えて考え込んだ。
「とりあえずこの件は私がどうにかします。あなたはその殿方との逢瀬を控えなさい。何処に何かがあるかわからないわ。それから……この事は決してオリカお姉様には言わないように」
 長女オリカは厳格な性格をしている。どちらの味方に付くかより、互いに何かしらの罰を与えるはずだ。その点セリカは優しい。エリサはセリカの言葉に甘えた。
「そらからもう一つ……あなたとその殿方は……一線は越えていないのよね?」
「それはないです」
「わかったわ……また後日連絡致します」
 そう言ってセリカはカフェを後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う

jun
恋愛
相思相愛の婚約者と後半年で結婚という時、彼の浮気発覚。そして浮気相手が妊娠…。 婚約は破棄され、私は今日もいきつけの店で一人静かにお酒を飲む。 少し離れた席で、似たような酒の飲み方をする男。 そのうち話すようになり、徐々に距離が縮まる二人。 しかし、男には家庭があった…。 2024/02/03 短編から長編に変更しました。

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました

榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。 私と旦那様は結婚して4年目になります。 可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。 でも旦那様は.........

処理中です...