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 それからしばらく経った頃だった。
 今日は大聖堂に行き、祈りを捧げる日だったが、姉セリカからエリサに断りを告げられた。
「今日はオリカお姉様が直々に行うから私達はいいそうよ」
「そ、そうですか……」
「それとあなたはしばらくここに来なくてもいいそうよ」
「ど、どうしてです?」
「気が付いていませんか?あなたと私が前回祈りを捧げた時の結界に歪みが生じた事を」
 そんな事は聞いた事もなければ初めて聞いた。しかも自分達が担当した時。そして今しがたセリカはエリサを外すと言った。つまり自分が原因。それを悟ったエリサの表情からは血の気が失せた。
「幸い被害は極小さなものでしたが、これが続き結界に歪みが生じればこの国に魔物が攻めてきます。何があったかは知らないけど、不安定な状態のあなたをこの任に着け続ける事は危険です。なのでしばらくはここに来なくて大丈夫です」


 大聖堂から出たエリサは足元がおぼつかなかった。そして近くのベンチに腰を落とした。
 まさか自分のせいでこれまで培ってきた結界に歪みが生じるとは。原因はエリサの精神的な不安定だとセリカは言った。つまりフリークとの事がここまでの事態を生むとは、エリサ自身想像も出来なかった。
「どうしよう……このまま聖女の力もなくなってしまったら……」
 フリークからの愛も見込めず、聖女としての地位もなくなれば、もはや自分には何もない。どうにかしなくてはいけない。だがそれはフリークとの円満な関係である事が今のエリサの答えでもある。
「あの、大丈夫ですか?」
 ふと頭の上から女の人の声が降って来たので、声の方を見た。するとそこにはフリークと楽し気に話していたあの女性がいた。
「あ、あなたは……」
「大丈夫ですか?なんだか辛そうだったので声をかけたんですが……」
 来ている服は安い布で作られたもの。化粧っ気もなく頭には布を巻き、その手にはかごがある事から、買い物帰りだったのだろうか。良家の令嬢として育てられた自分とは雲泥の差だ。だがフリークはこの女性をとった。しかし衝撃だったのはそれだけじゃなかった。
「お母さん……」
 女性の傍らには三歳か四歳くらいの男の子がいた。一瞬「まさか」と思ったが、見た目はフリークに似ていない事から、フリークと女性の子供ではないだろうと思いホッとした。
 いろいろと情報が多かったが、黙ったままでいるのはよくない。小さく呼吸をした後、エリサは声を放つ。
「大丈夫です。ご迷惑おかけしました……」
「いえ、大丈夫でしたらいいのですが……」
「お気遣いなく……それでは」
 なんだか嫌は別れをしてしまった気もしたが、エリサはそんな事は気にもならなかった。
 自分には子供もいて、そしてフリークからも愛されている。どれだけを考えると悔しくて仕方ない。あの子供の父親が誰で、この事を知っているのかどうかは知らないが、自分からフリークを奪った女性だ。それがなんだか許せなかった。それと同時に悲しい気持ちが一気に押し寄せた。
「どちらへ?」
 止まっていた馬車に乗り込んだエリサ。
「ルディア―ス家までお願いします」
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