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「あ、あの……」
 ジッと見つめたままのマルディアスはハッとした。
「す、すみません。あまりの美しさに言葉を失ってしまいました」
「美しいなんて……」
 そんな事はないですと小さく呟くエリサは、俯きがちになる。きっと顔は真っ赤になっているはずだ。生まれてこの方、異性からそのような言葉をかけてもらった事はない。否。自分よりもあね二人の方が美しいのもあり、皆は二人を賛美していた。
「本当の事なので、恥ずかしがる事はないです。顔を上げてくれませんか?」
「む、無理です……」
 どのような顔をしてマルディアスを見ればいいのかわからない。出来る事ならこのまま逃げ出したかったが、マルディアスはそうはさせなかった。
「エリサ様……」
 顎を手で支えられ無理やり顔を上げさせられた。
「本当に美しい……」
「は、放して下さい……」
「レーエンスブル様には勿体ないくらいだ」
「そんな事ないです!逆です。私にはフリーク様は勿体ないくらいです」
「貴女は本当にレーエンスブル様がお好きなようですね」
 恥ずかしさがさらに増したエリサは、その手を振り払いその場を立ち去った。
 残されたマルディアスはその後ろ姿をただ眺めるだけだった。


 パーティ会場に戻るが、フリークがどこにいるのかわからない。これだけの人の多さだ。それにマスカレードナイトなので皆マスクをしている。見つけられるはずもない。
「帰ろう……」
 フリークを探す事を諦めたエリサは、そのまま屋敷へと戻って行った。


 翌朝。黙って帰った事もあり、フリークに咎められるのかと思っていたが、フリークは既に仕事へと出たらしい。
「謝らないと」
 今夜会って謝ろうと思った。だが謝罪するのはもう一人いる。
「お招きいただいたのに、マルディアス様に無礼を働いてしまった」
 何も言わずパーティを抜けた事もだが、昨日逃げ出した事も謝らないといけない。だが次会う予定などない。どうしたものか考えた。


 この日は週に一度、大聖堂での祈りの儀式となっていた。大聖女ではないエリサは二人一組で祈りを行う。エリサの相手は姉のセリカだ。
「お久しぶりです!セリカお姉様」
「お久しぶり。婚儀の時以来かしら?元気にしていた?」
「はい。お姉様も変わらずですか?」
「まぁさほど変わりはないわね。さっ、早く終わらせてカフェでお茶でもしましょ」
 そう言われエリサはセリカと共に祭壇に登る。
 ここでする事は祈り。祈りの言葉を詠唱する事で、この国の均衡は保てる。
 今日もつつがなく終え、セリカと共にカフェへと向かった。


 目の前に並べられたアフタヌーンティーやスコーンやサンドイッチ、ケーキなどがケーキスタンドに並べられている。
「新婚生活はいかがかしら?」
「えっと……楽しくやっています」
「そう?なんだか困っている様にも見えなくもないですが」
 流石は姉。エリサの事などお見通しなのかもしれない。だが内容が内容なだけに、相談すべきか悩む。
「そ、そうですね。お料理の腕があまりあがらない事が悩みですかね」
「料理はシェフにお任せしていればいいでしょ」
「私の手料理を食べていただきたくて」
「夫に尽くす姿はいいものですね。何かあれば言うのですよ」
 結局本日の事は言えなかった。結婚して一か月が過ぎてもまだ初夜を迎えていないとは。
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