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 現れた人物がこのパーティの主催であるルディア―ス家の現当主、マルディアス・ルディア―スと知り、エリサは背筋を伸ばした。
「こ、今宵はお招きありがとうございます」
「いえいえ、パーティとは名ばかりのもので、多くの人達は仕事の商談などをしているでしょうから、ご婦人には少々お暇でしたかな?」
「そんな事ないです。ただ私がパーティというものに初めて参加したので、気後れしてしまいました」
 本来ならば夫は商談。その妻達は夫人達でコミュニティやサロンなどを開くのだろうが、これまで聖女一族として育ったエリサにとって、パーティというものは初めてだった。故に社交界のマナーや流儀などと言ったものはまったくわからない。
 聖女一族エデンワースは、婚姻するまで女子が表舞台に出る事はない。全ては一族当主とその妻で行う。
「おや。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」
「エ、エリサです。エリサ・レーエンスブルクです」
 なんだか今の名前を言うのは少し恥ずかしい気もした。だがその名を聞いて察したのか、マルディアスは「なるほど」と呟いた。
「確かレーエンスブルク家の嫡男が最近聖女一族の者と結婚したと聞いたが、貴女でしたか。それは失礼しました。重ねてお詫びを」
 そう言ってその場に跪いたマルディアスは、エリサの手を取り、その甲に口づけをした。驚いたエリサが直ぐに手を引っ込めた。
「な、何をするんですか?」
「おや、こういうマナーを御存じでなくて?」
「マナー?」
「はい。尊敬に値する女性に対し男が手の甲にキスをするのは紳士のマナーなのですよ」
 紳士が行うマナーの一つと言われても、これまでフリーク以外に触れられた事のなかったエリサにとっては衝撃以外なかった。とはいえ、フリークに触れてもらったのは結婚式の時のキス。あの一度きりだが。
「貴女は由緒正しきレーエンスブルク家の時期当主夫人となられる方です。少しづつマナーに慣れていくといいです」
「そうですね。私こそ失礼な態度をとってごめんなさい」
「いえ、お気になさらず。それよりもレーエンスブルク様は?」
「フリーク様は他の方とお話しているので、私は隅にいようかと」
「ご婦人を放っておくとは、レーエンスブルク様も紳士としてのマナー違反ですな」
「そ、そんな事ないです!フリーク様は悪くないです。私が側にいなかったので……」
 それでもエリサの手を取っているのが夫としての役目だ。それにその話の中でエリサを妻として紹介するのも当たり前。それをしなかったという事は、何か訳ありなのか。それとも……話を聞いただけだが、マルディアス自身も考えさせられた。
「では少し外の空気を吸いますか?ここはエリサ様にはうるさいのでは?」
「えっと……そうですね。人の多さに酔ってしまいそうです」
「ではどうぞ。こちらへ」
 スッと差し出された手。エリサは手を取るべきなのか迷いつつ、これも紳士のマナーなのだろうと理解し、恐る恐るその手を取った。


 パーティそのものは二階の大広間で行われており、エリサはマルディアスに連れられ、一階に降り、ルディア―ス家の庭園へとやって来た。
「凄い……綺麗な薔薇園ですね」
「ここは亡き母のこだわりで作られた場所です。暗いのが残念ですが、様々な種類の薔薇が植えられているのですよ」
「へぇ……」
「そのマスク。窮屈でしょう。ここでは取っても大丈夫ですよ」
 マルディアスの言葉に甘え、ずっとつけていたマスクを外した。素のエリサを見たマルディアスは息を飲んだ。
 これが運命の始まりでもあった。
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