3 / 91
3
しおりを挟む
現れた人物がこのパーティの主催であるルディア―ス家の現当主、マルディアス・ルディア―スと知り、エリサは背筋を伸ばした。
「こ、今宵はお招きありがとうございます」
「いえいえ、パーティとは名ばかりのもので、多くの人達は仕事の商談などをしているでしょうから、ご婦人には少々お暇でしたかな?」
「そんな事ないです。ただ私がパーティというものに初めて参加したので、気後れしてしまいました」
本来ならば夫は商談。その妻達は夫人達でコミュニティやサロンなどを開くのだろうが、これまで聖女一族として育ったエリサにとって、パーティというものは初めてだった。故に社交界のマナーや流儀などと言ったものはまったくわからない。
聖女一族エデンワースは、婚姻するまで女子が表舞台に出る事はない。全ては一族当主とその妻で行う。
「おや。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」
「エ、エリサです。エリサ・レーエンスブルクです」
なんだか今の名前を言うのは少し恥ずかしい気もした。だがその名を聞いて察したのか、マルディアスは「なるほど」と呟いた。
「確かレーエンスブルク家の嫡男が最近聖女一族の者と結婚したと聞いたが、貴女でしたか。それは失礼しました。重ねてお詫びを」
そう言ってその場に跪いたマルディアスは、エリサの手を取り、その甲に口づけをした。驚いたエリサが直ぐに手を引っ込めた。
「な、何をするんですか?」
「おや、こういうマナーを御存じでなくて?」
「マナー?」
「はい。尊敬に値する女性に対し男が手の甲にキスをするのは紳士のマナーなのですよ」
紳士が行うマナーの一つと言われても、これまでフリーク以外に触れられた事のなかったエリサにとっては衝撃以外なかった。とはいえ、フリークに触れてもらったのは結婚式の時のキス。あの一度きりだが。
「貴女は由緒正しきレーエンスブルク家の時期当主夫人となられる方です。少しづつマナーに慣れていくといいです」
「そうですね。私こそ失礼な態度をとってごめんなさい」
「いえ、お気になさらず。それよりもレーエンスブルク様は?」
「フリーク様は他の方とお話しているので、私は隅にいようかと」
「ご婦人を放っておくとは、レーエンスブルク様も紳士としてのマナー違反ですな」
「そ、そんな事ないです!フリーク様は悪くないです。私が側にいなかったので……」
それでもエリサの手を取っているのが夫としての役目だ。それにその話の中でエリサを妻として紹介するのも当たり前。それをしなかったという事は、何か訳ありなのか。それとも……話を聞いただけだが、マルディアス自身も考えさせられた。
「では少し外の空気を吸いますか?ここはエリサ様にはうるさいのでは?」
「えっと……そうですね。人の多さに酔ってしまいそうです」
「ではどうぞ。こちらへ」
スッと差し出された手。エリサは手を取るべきなのか迷いつつ、これも紳士のマナーなのだろうと理解し、恐る恐るその手を取った。
パーティそのものは二階の大広間で行われており、エリサはマルディアスに連れられ、一階に降り、ルディア―ス家の庭園へとやって来た。
「凄い……綺麗な薔薇園ですね」
「ここは亡き母のこだわりで作られた場所です。暗いのが残念ですが、様々な種類の薔薇が植えられているのですよ」
「へぇ……」
「そのマスク。窮屈でしょう。ここでは取っても大丈夫ですよ」
マルディアスの言葉に甘え、ずっとつけていたマスクを外した。素のエリサを見たマルディアスは息を飲んだ。
これが運命の始まりでもあった。
「こ、今宵はお招きありがとうございます」
「いえいえ、パーティとは名ばかりのもので、多くの人達は仕事の商談などをしているでしょうから、ご婦人には少々お暇でしたかな?」
「そんな事ないです。ただ私がパーティというものに初めて参加したので、気後れしてしまいました」
本来ならば夫は商談。その妻達は夫人達でコミュニティやサロンなどを開くのだろうが、これまで聖女一族として育ったエリサにとって、パーティというものは初めてだった。故に社交界のマナーや流儀などと言ったものはまったくわからない。
聖女一族エデンワースは、婚姻するまで女子が表舞台に出る事はない。全ては一族当主とその妻で行う。
「おや。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」
「エ、エリサです。エリサ・レーエンスブルクです」
なんだか今の名前を言うのは少し恥ずかしい気もした。だがその名を聞いて察したのか、マルディアスは「なるほど」と呟いた。
「確かレーエンスブルク家の嫡男が最近聖女一族の者と結婚したと聞いたが、貴女でしたか。それは失礼しました。重ねてお詫びを」
そう言ってその場に跪いたマルディアスは、エリサの手を取り、その甲に口づけをした。驚いたエリサが直ぐに手を引っ込めた。
「な、何をするんですか?」
「おや、こういうマナーを御存じでなくて?」
「マナー?」
「はい。尊敬に値する女性に対し男が手の甲にキスをするのは紳士のマナーなのですよ」
紳士が行うマナーの一つと言われても、これまでフリーク以外に触れられた事のなかったエリサにとっては衝撃以外なかった。とはいえ、フリークに触れてもらったのは結婚式の時のキス。あの一度きりだが。
「貴女は由緒正しきレーエンスブルク家の時期当主夫人となられる方です。少しづつマナーに慣れていくといいです」
「そうですね。私こそ失礼な態度をとってごめんなさい」
「いえ、お気になさらず。それよりもレーエンスブルク様は?」
「フリーク様は他の方とお話しているので、私は隅にいようかと」
「ご婦人を放っておくとは、レーエンスブルク様も紳士としてのマナー違反ですな」
「そ、そんな事ないです!フリーク様は悪くないです。私が側にいなかったので……」
それでもエリサの手を取っているのが夫としての役目だ。それにその話の中でエリサを妻として紹介するのも当たり前。それをしなかったという事は、何か訳ありなのか。それとも……話を聞いただけだが、マルディアス自身も考えさせられた。
「では少し外の空気を吸いますか?ここはエリサ様にはうるさいのでは?」
「えっと……そうですね。人の多さに酔ってしまいそうです」
「ではどうぞ。こちらへ」
スッと差し出された手。エリサは手を取るべきなのか迷いつつ、これも紳士のマナーなのだろうと理解し、恐る恐るその手を取った。
パーティそのものは二階の大広間で行われており、エリサはマルディアスに連れられ、一階に降り、ルディア―ス家の庭園へとやって来た。
「凄い……綺麗な薔薇園ですね」
「ここは亡き母のこだわりで作られた場所です。暗いのが残念ですが、様々な種類の薔薇が植えられているのですよ」
「へぇ……」
「そのマスク。窮屈でしょう。ここでは取っても大丈夫ですよ」
マルディアスの言葉に甘え、ずっとつけていたマスクを外した。素のエリサを見たマルディアスは息を飲んだ。
これが運命の始まりでもあった。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う
jun
恋愛
相思相愛の婚約者と後半年で結婚という時、彼の浮気発覚。そして浮気相手が妊娠…。
婚約は破棄され、私は今日もいきつけの店で一人静かにお酒を飲む。
少し離れた席で、似たような酒の飲み方をする男。
そのうち話すようになり、徐々に距離が縮まる二人。
しかし、男には家庭があった…。
2024/02/03 短編から長編に変更しました。
【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です
堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」
申し訳なさそうに眉を下げながら。
でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、
「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」
別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。
獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。
『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』
『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』
――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。
だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。
夫であるジョイを愛しているから。
必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。
アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。
顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。
夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。
旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました
榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。
私と旦那様は結婚して4年目になります。
可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。
でも旦那様は.........
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる