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望まれる者。そして望まれぬ者。この二つには大きな隔たりがある。
一つ国を出れば、そこには魔物が存在する世界。その為、国を守る為の結界が必要となる。それが出来るのは聖女と呼ばれる存在だ。
ルフェリア国にも結界を創る事に秀でた名家がある。それがエデンワース一族だ。
エデンワース本家には三人の娘がおり、オリカ、セリカ、エリサという名で、オリカは大聖女としてルフェリア国の皇太子の元に嫁いだ。セリカはエデンワース家に残り、婿養子をもらって聖女としての役目を。各々が聖女としての役目を果たす。
聖女の仕事は週に一度、大聖堂にある祈りの間で行う。大聖女となれば一人で結界を創る事が出来るが、そうでない聖女は二人一組で行う。
個々人によるところもあるが、聖女の力は番を得る事で安定するとも言われる。一族のほとんどは早くに婚約をして力を高める。
そんな中、三女のエリサは十八になり、さらなる力と、一族繁栄の為に婚約する事となる。
そこで白羽の矢が立った名門貴族、レーエンスブルク家の嫡男フリークの元へ嫁ぐことが決まった。
親同士の決めた婚約。初めこそ乗り気でなかったエリサだったが、初めて顔を合わせたフリークに一目惚れをした。黒い硬質な髪に高い背。切れ長な瞳に厚めの唇。自分はこの人の妻となれるのだと思うと心が踊った。だがフリーク自身はあまり気が乗らないのか、顔合わせの食事会では終始無表情を貫いていた。元々あまり表情が変わらない人なのか、それともエリサ自身に興味がないのか。後者であれば辛い。だが妻として精一杯夫を支えようとエリサは決意した。
たとえそれが叶わぬ願いだとしても……
エリサとフリークの婚儀は問題もなく行われた。両者一族を交えての婚儀にエリサは緊張しつつも、祭壇の先にいるフリークを見た。
神への誓い。そして初めての口づけ。全ては順調そのものだった。
しかし……
「エリサ様。旦那様より急用が入ったとの事で、今夜はこちらへは来られません」
侍女の言葉にエリサは失望した。
二人が正式に夫婦として認められるはずの初夜。それを仕事と言って来ないとは。だが仕事と言われてしまえばエリサは何も言えなかった。その日の夜、エリサは枕を濡らしながら眠れぬ夜を過ごした。
初夜を行う事なく迎えた翌日、そしてまた翌日。フリークはエリサを抱く事はなかった。
結婚して一ヶ月。エリサは今もまだ処女のままだった。
「お帰りなさいませ。外は寒かったですよね?温かいスープを作ったのですが……」
「悪いがまだ仕事が残っている。一人にしてくれないか?」
「かしこまりました……」
冷たくあしらわれ、フリークはそのまま書斎にこもってしまった。
残されたエリサは涙を堪えた。ここまでくるとレーエンスブルク家に仕えるものも哀れに思ったのか、「エリサ様。お気を落とさず」と言われる始末だ。
ここはエリサとフリークの為に用意された屋敷だ。フリークの両親はここにはいない。泣きつく場所などどこにもない。泣くのは自室のベッドだ。
望まれて結婚したわけではないが、そんなものも結婚してしまえば変わると思っていた。だが想像に反し、エリサは冷遇された花嫁の烙印を周囲に押されていたのだ。
一つ国を出れば、そこには魔物が存在する世界。その為、国を守る為の結界が必要となる。それが出来るのは聖女と呼ばれる存在だ。
ルフェリア国にも結界を創る事に秀でた名家がある。それがエデンワース一族だ。
エデンワース本家には三人の娘がおり、オリカ、セリカ、エリサという名で、オリカは大聖女としてルフェリア国の皇太子の元に嫁いだ。セリカはエデンワース家に残り、婿養子をもらって聖女としての役目を。各々が聖女としての役目を果たす。
聖女の仕事は週に一度、大聖堂にある祈りの間で行う。大聖女となれば一人で結界を創る事が出来るが、そうでない聖女は二人一組で行う。
個々人によるところもあるが、聖女の力は番を得る事で安定するとも言われる。一族のほとんどは早くに婚約をして力を高める。
そんな中、三女のエリサは十八になり、さらなる力と、一族繁栄の為に婚約する事となる。
そこで白羽の矢が立った名門貴族、レーエンスブルク家の嫡男フリークの元へ嫁ぐことが決まった。
親同士の決めた婚約。初めこそ乗り気でなかったエリサだったが、初めて顔を合わせたフリークに一目惚れをした。黒い硬質な髪に高い背。切れ長な瞳に厚めの唇。自分はこの人の妻となれるのだと思うと心が踊った。だがフリーク自身はあまり気が乗らないのか、顔合わせの食事会では終始無表情を貫いていた。元々あまり表情が変わらない人なのか、それともエリサ自身に興味がないのか。後者であれば辛い。だが妻として精一杯夫を支えようとエリサは決意した。
たとえそれが叶わぬ願いだとしても……
エリサとフリークの婚儀は問題もなく行われた。両者一族を交えての婚儀にエリサは緊張しつつも、祭壇の先にいるフリークを見た。
神への誓い。そして初めての口づけ。全ては順調そのものだった。
しかし……
「エリサ様。旦那様より急用が入ったとの事で、今夜はこちらへは来られません」
侍女の言葉にエリサは失望した。
二人が正式に夫婦として認められるはずの初夜。それを仕事と言って来ないとは。だが仕事と言われてしまえばエリサは何も言えなかった。その日の夜、エリサは枕を濡らしながら眠れぬ夜を過ごした。
初夜を行う事なく迎えた翌日、そしてまた翌日。フリークはエリサを抱く事はなかった。
結婚して一ヶ月。エリサは今もまだ処女のままだった。
「お帰りなさいませ。外は寒かったですよね?温かいスープを作ったのですが……」
「悪いがまだ仕事が残っている。一人にしてくれないか?」
「かしこまりました……」
冷たくあしらわれ、フリークはそのまま書斎にこもってしまった。
残されたエリサは涙を堪えた。ここまでくるとレーエンスブルク家に仕えるものも哀れに思ったのか、「エリサ様。お気を落とさず」と言われる始末だ。
ここはエリサとフリークの為に用意された屋敷だ。フリークの両親はここにはいない。泣きつく場所などどこにもない。泣くのは自室のベッドだ。
望まれて結婚したわけではないが、そんなものも結婚してしまえば変わると思っていた。だが想像に反し、エリサは冷遇された花嫁の烙印を周囲に押されていたのだ。
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