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Act.2大地
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今日は昨日と違い朝から晴れていた。空気は乾燥して冷たいが、太陽の暖かさがあるので、昨日より幾分ましだ。雪も積っておらず、日蔭になっている所に薄らと雪の名残がある程度だ。
「大ちゃーん!ってうわっ!どうしたのその顔!」
職場に来た早々、元気のよい女の声が聞こえた。
長いストレートの髪を後ろで束ね、ブラウスの上にカーディガンを着た女性は、大地の顔を見るなり大きな目をいっぱいに開けて驚いた。
「あ、有貴ちゃんおはよう」
「おはようじゃないわよ。すっごいクマ!何かあったの?」
「うん。ちょっと寝不足」
はははと笑って誤魔化す大地に、有貴は盛大に眉をしかめる。
水島有貴は大地と同期入社の女性で、思ったことをはっきり言うが、決して相手を傷つけるような人物ではない。よく言えば気が強く芯がある。悪く言えば男勝りの性格である。そして大地の過去を知る唯一の人物でもあり、大地にとってはよき理解者である。
「あんたねぇ、見え透いた嘘ついても私にはわかるんだから!何か悩み事?」
「悩みって程じゃないかな。ちょっと昨日困ってた人を保護して」
そう言うと有貴が盛大にため息を漏らした。
「また?あんたってホント人が良すぎだって!前も捨て犬だか捨て猫だか拾って保護してたでしょ!」
「まぁ……でも、捨てられたら放っておけないでしょ?」
「それはそうかもしれないけど、ってあのねぇ……動物ならまだしも、今度は人間?」
「うん。僕よりも年下で優君って言うんだけど」
「はぁぁぁ……!もうあんたの博愛主義には開いた口が塞がらないわ!」
本当に有貴は呆れ果てていた。こうなっては有貴からお小言の一つや二つは覚悟しておかなくてはいけないと思った。
「とりあえず、その話は昼にでも聞くから!」
ピッと人差し指をかざし、有貴は自分の持ち場へと行ってしまった。大地も眠たい気分を覚ます為、パンパンと両頬を叩き自分の椅子に座る。
大地の仕事は主に住民票の整理で、他にも市民の個人情報管理などをしている。元々表に立って客対応をするのが苦手で、上司もそれをわかった上での今の配置だろう。来た人の対応はよっぽどでない限りはしない。真面目でそつなく、仕事のスピードとしては早いが、別にそれは大地が仕事の出来るからというわけでもない。
ただ淡々と同じことの繰り返しをしているだけだ。本当の意味で仕事の出来る人間は、こういう処理や対応を普通にやる人間だと大地は思っている。
今日も住所変更やらの手続きがあった。今時期は会社の移動も引っ越しも少ないのでいいが、春先などの新生活が始まる時にはとても忙しい。それに加えて新年度は何かと決まり事が変更になったりするのでバタバタしたりする。
(優君起きたかな?)
はたと手を止めた。大地が家を出る時、優はまだ眠っていた。とっくに朝になっていたが、起こすのも悪いと思ってそのままにしたが、なんとなく優の事が心配になった。だが家にはスミレもいるし、スミレが優の対応をしてくれるだろう。
昼休みになると宣言通り、有貴に根掘り葉掘りと聞かれた。事の一部始終を話し終えると、有貴は「やっぱあんた馬鹿だわ」と言いながら、持参している弁当のおかずを口に含んだ。
「自分と似ているからって、普通家に呼ぶ?」
「だって、家に帰りたくなさそうだったし、スレた感じもないから大丈夫だろうと思って」
「あんたそのうち絶対詐欺被害合うわ!」
「そ、それは困るかな……でも本当は素直でいい子だと思うんだよね」
無表情で口は悪いが、風呂に入っている間に寝てしまったスミレへの気遣いなどを見ていて、優は自分の感情の表現が上手く出来ないだけなのだと思った。
だが有貴の心配としている所はそこではなかった。
「それで?その優君って子、どうするつもりなの?」
「それは優君自身が決めたらいいと思う。それまで家に置いてあげるって言ったから」
「もう何言っても無駄だから何も言わないけど、何かあったら言いなさいよ。って、あんたの場合、何かあってからでは遅いか……とりあえず少しでもおかしな事があったら言うのよ」
「うん。ありがとね有貴ちゃん」
「ほんっと!私っていい人ね!あんたみたいなお人よし馬鹿に付き合ってあげてるんだもん!」
自画自賛する有貴だが、大地としても有貴の存在はありがたいし、いい同僚だと思っている。
大地にとっての人付き合いは、あまり相手に入り込まず、上辺だけの付き合いが多い。なので仕事が終わってから同僚達と飲みに行ったりする事もほとんどなく、飲み会なども新年会や忘年会などの節目以外は参加しない。休日も一人で過ごす事が多く、基本的には付き合いの悪い部類だ。
だが有貴の場合はその性格からなのだろう。結構初対面から大地にズバズバと聞いて来たり、はっきりとものを言うので、今では大学時代の友人や、地元の友人よりも仲がいい。
当人同士は友達感覚なのだが、周りはそう思ってないらしく、度々「付き合ってるの?」や「結婚しないの?」と聞かれるが、大地の心情としては、結婚は興味がないからしたいと思わないだ。それに有貴自身も結婚願望は今の所ないが、余所で彼氏はちゃんといる。
それに今は有貴の事はどうでもいいと思っていた。早く仕事を終わらせ家に帰って優の様子を見たい。
(優君ばあちゃんと仲良くしてたらいいけど)
会社に来て、仕事をしながらも、今日の大地はずっと優の事ばかり考えていた。
「大ちゃーん!ってうわっ!どうしたのその顔!」
職場に来た早々、元気のよい女の声が聞こえた。
長いストレートの髪を後ろで束ね、ブラウスの上にカーディガンを着た女性は、大地の顔を見るなり大きな目をいっぱいに開けて驚いた。
「あ、有貴ちゃんおはよう」
「おはようじゃないわよ。すっごいクマ!何かあったの?」
「うん。ちょっと寝不足」
はははと笑って誤魔化す大地に、有貴は盛大に眉をしかめる。
水島有貴は大地と同期入社の女性で、思ったことをはっきり言うが、決して相手を傷つけるような人物ではない。よく言えば気が強く芯がある。悪く言えば男勝りの性格である。そして大地の過去を知る唯一の人物でもあり、大地にとってはよき理解者である。
「あんたねぇ、見え透いた嘘ついても私にはわかるんだから!何か悩み事?」
「悩みって程じゃないかな。ちょっと昨日困ってた人を保護して」
そう言うと有貴が盛大にため息を漏らした。
「また?あんたってホント人が良すぎだって!前も捨て犬だか捨て猫だか拾って保護してたでしょ!」
「まぁ……でも、捨てられたら放っておけないでしょ?」
「それはそうかもしれないけど、ってあのねぇ……動物ならまだしも、今度は人間?」
「うん。僕よりも年下で優君って言うんだけど」
「はぁぁぁ……!もうあんたの博愛主義には開いた口が塞がらないわ!」
本当に有貴は呆れ果てていた。こうなっては有貴からお小言の一つや二つは覚悟しておかなくてはいけないと思った。
「とりあえず、その話は昼にでも聞くから!」
ピッと人差し指をかざし、有貴は自分の持ち場へと行ってしまった。大地も眠たい気分を覚ます為、パンパンと両頬を叩き自分の椅子に座る。
大地の仕事は主に住民票の整理で、他にも市民の個人情報管理などをしている。元々表に立って客対応をするのが苦手で、上司もそれをわかった上での今の配置だろう。来た人の対応はよっぽどでない限りはしない。真面目でそつなく、仕事のスピードとしては早いが、別にそれは大地が仕事の出来るからというわけでもない。
ただ淡々と同じことの繰り返しをしているだけだ。本当の意味で仕事の出来る人間は、こういう処理や対応を普通にやる人間だと大地は思っている。
今日も住所変更やらの手続きがあった。今時期は会社の移動も引っ越しも少ないのでいいが、春先などの新生活が始まる時にはとても忙しい。それに加えて新年度は何かと決まり事が変更になったりするのでバタバタしたりする。
(優君起きたかな?)
はたと手を止めた。大地が家を出る時、優はまだ眠っていた。とっくに朝になっていたが、起こすのも悪いと思ってそのままにしたが、なんとなく優の事が心配になった。だが家にはスミレもいるし、スミレが優の対応をしてくれるだろう。
昼休みになると宣言通り、有貴に根掘り葉掘りと聞かれた。事の一部始終を話し終えると、有貴は「やっぱあんた馬鹿だわ」と言いながら、持参している弁当のおかずを口に含んだ。
「自分と似ているからって、普通家に呼ぶ?」
「だって、家に帰りたくなさそうだったし、スレた感じもないから大丈夫だろうと思って」
「あんたそのうち絶対詐欺被害合うわ!」
「そ、それは困るかな……でも本当は素直でいい子だと思うんだよね」
無表情で口は悪いが、風呂に入っている間に寝てしまったスミレへの気遣いなどを見ていて、優は自分の感情の表現が上手く出来ないだけなのだと思った。
だが有貴の心配としている所はそこではなかった。
「それで?その優君って子、どうするつもりなの?」
「それは優君自身が決めたらいいと思う。それまで家に置いてあげるって言ったから」
「もう何言っても無駄だから何も言わないけど、何かあったら言いなさいよ。って、あんたの場合、何かあってからでは遅いか……とりあえず少しでもおかしな事があったら言うのよ」
「うん。ありがとね有貴ちゃん」
「ほんっと!私っていい人ね!あんたみたいなお人よし馬鹿に付き合ってあげてるんだもん!」
自画自賛する有貴だが、大地としても有貴の存在はありがたいし、いい同僚だと思っている。
大地にとっての人付き合いは、あまり相手に入り込まず、上辺だけの付き合いが多い。なので仕事が終わってから同僚達と飲みに行ったりする事もほとんどなく、飲み会なども新年会や忘年会などの節目以外は参加しない。休日も一人で過ごす事が多く、基本的には付き合いの悪い部類だ。
だが有貴の場合はその性格からなのだろう。結構初対面から大地にズバズバと聞いて来たり、はっきりとものを言うので、今では大学時代の友人や、地元の友人よりも仲がいい。
当人同士は友達感覚なのだが、周りはそう思ってないらしく、度々「付き合ってるの?」や「結婚しないの?」と聞かれるが、大地の心情としては、結婚は興味がないからしたいと思わないだ。それに有貴自身も結婚願望は今の所ないが、余所で彼氏はちゃんといる。
それに今は有貴の事はどうでもいいと思っていた。早く仕事を終わらせ家に帰って優の様子を見たい。
(優君ばあちゃんと仲良くしてたらいいけど)
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