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そう思った瞬間、後ろからふわりと何かが覆いかぶさってきたので、美奈穂は驚いて目の上に置いたタオルを少しずらして背後にあるものを見た。
「慶さん?」
後ろから抱きしめるようにして慶がいた。
「ずっと我慢してたんですね…いいですよ。無理しないで…泣きたければ泣けばいいし…今までそうやって泣きたい時、誰もいなくて甘えられなかったんですよね?」
「そんな事…言わないで…ホント…泣きそうだから…」
じわりと目じりに溜まる涙。ありきたりな言葉でも、今の美奈穂の心を落ち着かせるには十分だった。それまで堰き止めていた何かが涙となって流れ落ちる。
「ばかぁ…」
一体自分は何を言っているのかと思った。慶の優しさに嬉しいのならば素直にそう言えばいいのに、まったく違う言葉が溢れてしまった。
「いいんですよ。美奈穂さんが泣いても俺ずっといますから…」
「ホント…勘弁してぇ…こういうの慣れてないし…優しくされたら私…どうしたらいいのかわからない…」
いつもは丁寧に接している美奈穂だが、ついつい由美に話すような口調で言ってしまった。だが慶は気にしてる感じでもない。ただずっと抱きしめてくれていた。
一旦は止まっていた涙がまた流れる。止まらない涙。だが側に慶がいてくれて嬉しい半分、こんな醜態を見せている事が恥ずかしい半分だった。この時だけは哀しみがどこかに飛んでいた。
「美奈穂さん…そういう時は素直に甘えて下さい…」
「甘えるって…どうすればいいのかわかんないよ…」
もう何もかもがめちゃくちゃだった。泣くわ喚くわで美奈穂自身何をしているのか全然わかっていない。これだけ泣いたなら、今日はお岩さんのような顔決定だろうと思っていた時だった。
「…っ…」
慶の顔が異様に近い。そして自分の唇の上に何か柔らかいものが押し当てられている。一体何が起こったか考えていると、慶の顔が放れた。その瞬間、何が起こったのか状況がようやく掴める。
「えっ…あの…ん?」
目を大きく見開き瞼を開けたり閉じたりする美奈穂を見て慶はクスッと笑う。
「もう大丈夫そうですね」
「いや…そういう問題じゃ…」
間違いでなけでば今、美奈穂は慶にキスをされたのではないのか?頭が真っ白で深く考えられない。背中で感じられた慶の温もりが去っていく。
「今の美奈穂さん見てたらあまりにも可愛くて…すみません。なんか突然…」
「いや…別に…てか私こそこんな時間まですみません!そろそろ寝ますね!」
慌てて席を立った美奈穂はバタバタと部屋に戻って布団に包まった。
「キス…したよな…うん。なんかしたっぽい…」
中学生的思考が頭の中でグルグルと回る。由美がいれば「おぼこじゃないんだからキスくらいで騒ぐな」と言われるだろう。だが美奈穂にとっては実に十年ぶりのキスだ。動揺するなと言う方がおかしかった。
「慶さん?」
後ろから抱きしめるようにして慶がいた。
「ずっと我慢してたんですね…いいですよ。無理しないで…泣きたければ泣けばいいし…今までそうやって泣きたい時、誰もいなくて甘えられなかったんですよね?」
「そんな事…言わないで…ホント…泣きそうだから…」
じわりと目じりに溜まる涙。ありきたりな言葉でも、今の美奈穂の心を落ち着かせるには十分だった。それまで堰き止めていた何かが涙となって流れ落ちる。
「ばかぁ…」
一体自分は何を言っているのかと思った。慶の優しさに嬉しいのならば素直にそう言えばいいのに、まったく違う言葉が溢れてしまった。
「いいんですよ。美奈穂さんが泣いても俺ずっといますから…」
「ホント…勘弁してぇ…こういうの慣れてないし…優しくされたら私…どうしたらいいのかわからない…」
いつもは丁寧に接している美奈穂だが、ついつい由美に話すような口調で言ってしまった。だが慶は気にしてる感じでもない。ただずっと抱きしめてくれていた。
一旦は止まっていた涙がまた流れる。止まらない涙。だが側に慶がいてくれて嬉しい半分、こんな醜態を見せている事が恥ずかしい半分だった。この時だけは哀しみがどこかに飛んでいた。
「美奈穂さん…そういう時は素直に甘えて下さい…」
「甘えるって…どうすればいいのかわかんないよ…」
もう何もかもがめちゃくちゃだった。泣くわ喚くわで美奈穂自身何をしているのか全然わかっていない。これだけ泣いたなら、今日はお岩さんのような顔決定だろうと思っていた時だった。
「…っ…」
慶の顔が異様に近い。そして自分の唇の上に何か柔らかいものが押し当てられている。一体何が起こったか考えていると、慶の顔が放れた。その瞬間、何が起こったのか状況がようやく掴める。
「えっ…あの…ん?」
目を大きく見開き瞼を開けたり閉じたりする美奈穂を見て慶はクスッと笑う。
「もう大丈夫そうですね」
「いや…そういう問題じゃ…」
間違いでなけでば今、美奈穂は慶にキスをされたのではないのか?頭が真っ白で深く考えられない。背中で感じられた慶の温もりが去っていく。
「今の美奈穂さん見てたらあまりにも可愛くて…すみません。なんか突然…」
「いや…別に…てか私こそこんな時間まですみません!そろそろ寝ますね!」
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「キス…したよな…うん。なんかしたっぽい…」
中学生的思考が頭の中でグルグルと回る。由美がいれば「おぼこじゃないんだからキスくらいで騒ぐな」と言われるだろう。だが美奈穂にとっては実に十年ぶりのキスだ。動揺するなと言う方がおかしかった。
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