モブだった私、今日からヒロインです！

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「ヒナ？」
　呆然としたままの陽菜は、アレンの言葉でハッとなる。
「ヒナ……もしかして嫌だった？」
「ぜ、全然！むしろ驚いちゃっただけ！」
「よかった……てっきりダメなのかと思ったよ」
「散々したいだのするなど言ってるんだから、ダメはないけどビックリしただけ」
　さりげないがいいと言った陽菜の言葉通り、アレンなりにさりげなくしたのだろうが、いざそうなると言葉を失う程驚くものだなと思った。
「ヒナにはこれから迷惑をかけると思うけど、僕は真剣にヒナが好きだよ。この先も一緒にいたいと思う。けどヒナを悲しませたり、辛い思いをしないよう僕なりに努力するよ。だから僕と結婚して下さい！」
「苦労するのをわかったうえで、それでもアレンが好きだってわかった時点で、私はアレンと一緒にいたいって思った。だから結婚したい」
「ヒナ！」
　ガバッと陽菜を抱きしめたアレンは、陽菜の左手薬指に指輪をはめた。エンゲージらしい存在感のあるダイヤモンドを眺めながら陽菜はいよいよなのだなと実感した。
　アレンと結婚するにはまず二人だけでは出来ない。どうしても相手が相手なだけに、いくつもの困難があるだろう。それでも一緒にいたいと思った。
　この想いを本当に成就する為にも、まずは明日。ヒースルー家に行ってからが勝負だと、陽菜は気合いを入れた。


　翌日、昨日と同じ執事がホテルまで迎えに来た。山のような荷物は置いていていいと言われたので、そのままにしておいたが、どうするのかと尋ねると「基本的にホテルが拠点だから」と言われた。
　つまりヒースルー本邸に泊まる事はないのかなと思った。
　しばらく車を走らせ、ロンドン郊外にやって来た。そこは数件ほど高級住宅があるだけの閑静な場所だ。
　そして車は大きな門扉を潜り抜け、またしばらく道路を走る。周囲には何も無い。
「こっちなの？」
「そうだよ。もうヒースルー家の敷地だよ」
　さすがはヒースルー家。こんなにも広大な土地を持っているとは。馬でも走らせる事が可能だなと思っていると、実際厩舎きゅうしゃがあり、この敷地で馬を走らせる事もよくあるそうだ。
　こうして敷地内道路をしばらく走ると、まるでお城のような建物が見えて来た。
　これがヒースルー本邸なのだとわかり、陽菜は生唾を飲み込んだ。自分はシンデレラか何かにでもなったのかと思ってしまった。
　現代風の建物ではなく、完全に古城である。
「お疲れ様です」
　車が建物の前で止まると、執事がドアを開け、アレンが降り、陽菜も恐る恐る車から降りた。
(うぅ……緊張してきた)
　いざ目の前にすると、心臓がバクバクと音を鳴らす。わかってはいたが規模が大きすぎる。硬直する陽菜は、昨夜までの気合いとは裏腹に、緊張感が一気に増した。
「兄さん！」
　城の扉が開くや否や、いきなり姿を見せたのは弟のアンリだ。
「アンリ久しぶりだね」
「久しぶりって、この間会ったばかりだけど？」
「そうだったっけ？それより迎えはアンリだけなのか？」
「そうだよ。邪魔だから他は下がらせた」
　相変わらずのブラコンを発揮するアンリを見て、緊張していた心が少しだけ陽菜はホッとした。