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 東京からイギリスへ。約十二時間の移動を経て、ついに陽菜にとっては戦地となるロンドンへ到着した。
「本当に必要最低限だけの荷物なんだけど……」
「欲しい物はすぐ買えるし、ホテルの方にも用意してるよ」
「ホテル?」
「そう。今日一日はゆっくりして、明日家の方に向かう方が陽菜にとっても心の準備出来るでしょ?」
「ま、まぁ……」
 着の身着のまま、必要最低限の荷物のみでやってきたのもあるが、やはり何かと緊張はする。アレンなりの気配りなのだろう。
「どうする?今日は観光する?」
「したいのは山々だけど、ホテルでゆっくりしたいかな」
「了解」
 そう言うと空港に迎えの車がやって来ていた。もちろん高級車なのはお馴染みなのだが、運転席から出てきた初老の男性がアレンに頭を下げた。
「お帰りなさいませアレン様」
「迎えご苦労。とりあえず今日はホテルに泊まるから」
「畏まりました」
 何やら顔見知りな二人の会話。キョトンとする陽菜に「うちの執事」と軽く言われてしまった。
(ひぃっ!いきなりお家の人に!)
 ここはアレンにとってはホームグラウンドなわけで、戦いは既に始まっているのだと実感した。しかも本場仕込の執事は実に紳士的だ。あれこれ話すわけでもなく、必要最低限のみを話し、主人に従順。
(私本当にイギリス来たんだなぁ……)
 観光名所でもある大英博物館やビッグ・ベン、ロンドン塔などを車から眺めてはいるものの、緊張しているからか、感動が薄い。
(これが何もなく旅行で来れたのなら楽しめたのになぁ……)
 そうこう思っていると、車は高級ホテルの入口に到着した。
「では明日。またお迎え参ります」
 丁寧な会釈をして執事は去って行く。
「さっ、中に入ろ」
 中に入ると、チェックインなどなしでフロントからキーを貰うと、ドアマンの誘導でエレベーターに乗り込む。
 どうやらここはヒースルーの一部のようだ。顔パスなのもそれが理由で、フロントマンともなればアレンの顔を知っているのだろう。手厚い丁寧な対応だ。
「ごゆっくりどうぞ」
 ドアマンに導かれ、アレンは気持ちばかりのチップをドアマンに渡した。
 この階に部屋は一つしかない。つまり最高級スイートか何かで、使えるのは各国の要人だったり、ヒースルー一族のみだ。
 部屋に入り、廊下を経てリビングのような広い空間。そこには沢山の箱や紙袋が置かれてあった。
「アレン……これって……」
「ここに来る前に頼んでいたもの。言ったでしょ?必要なものは買うって」
 金持ちの感覚はやはりわからない。それに陽菜とアレンだけの荷物にしては多すぎる。こんな量を明日どうやって運ぶのかと思った。しかも全てがハイブランドだ。
「こんな高級品を使っていいなんて、澤永さんならすごく喜びそう」
 陽菜自身は少し躊躇してしまうが、これしかないとなれば使うしかない。すると大きな箱や紙袋の中でも一際小さな手提げ袋を見つけた。
「何これ?」
 疑問になりその袋を手にした陽菜は、袋の中に小さな箱を見つけた。
「ちゃんとヒナが見つけてくれて嬉しいな。宝探しみたいだったでしょ?」
「ちょ、これ……」
「遅くなってごめんね。ヒナへの婚約指輪だよ」
 そう言ってアレンは紙袋を陽菜から取り上げ、箱を出して開けた。
「ヒナ、僕と結婚して下さい」
 突然の事に陽菜はつい言葉を失ってしまった。
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