モブだった私、今日からヒロインです！

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　目が覚めた時、昨夜の出来事が嘘だったのかと思った。とはよくある事だが、そんな都合よくある事もなく、全ては現実である。そして起こる日常も現実だ。
　余韻に浸る余裕もなく朝は少し寝坊した為、陽菜は急ぎ準備をする。当のアレンは急ぐ必要もないなどと言っていたが、ＣＥＯであろうと一社会人だ。
「わけわからない事言ってないで、早くシャワー浴びて自分の部屋に戻って下さい！」
「一晩を共にした恋人なのにムードがないなぁ……」
「ムードは今必要ないです！さあ早く！伊澄さんに怒られるのは私なんですから！」
「わかったよ。伊澄は今お怒りモードだからね。これ以上怒らせるわけにはいかない」
　大人しく陽菜の言う事を聞いてくれたアレンは、「シャワー借りるね」と言ってシャワールームへと向かう。
　平静を装ってはいるが、実際には昨夜の熱い夜は記憶にも深く刻まれている。朝起きてアレンを見て恥ずかしくなかったわけではない。だがこうして忙しくした事で何事もなかったかのようにしたが、一人になると顔に熱が集まる。
「普通にしなきゃ……」
　なるべく顔に出さないように。そうして見た目にはいつもと変わらない朝を迎えた。


　伊澄からの業務連絡を終え、朝のミーティングが終わる頃、澤永が陽菜の元へやって来た。
「どうやら昨日の答えは出たようね」
「へっ？」
「私の言った通りでしょ？考えるだけ無駄だったって」
「えっ？えっ？どういう事ですか？」
「どうって……ＣＥＯとベッドインしたんでしょ？」
　さっくりそんな事を言われ、陽菜は飛び跳ねそうな勢いになった。
　何か痕跡でもあるのだろうかと思った。
「どうしてって顔してるけど、わかる人にはわかるわ。おそらく伊澄室長もわかってるんじゃないかしら？」
「えぇ！そんなにわかりやすいですか？」
「まぁ、逆の立場だと、貴女ならわからないでしょうね」
　逆の立場と言われ陽菜が首を傾げると、「経験値の差よ」とさっくり言われてしまった。澤永はまだしも、伊澄にも知られているのかと思うと恥ずかしくなった。
「まっ、伊澄室長の場合は経験というより観察力かしら？あの人は初恋の女性と結婚して幸せそうだからね」
「えぇ！伊澄さんって結婚してたんですか？」
「知らなかったの？留学先で出会ったフランス人の奥さんよ。子供も双子の女の子で五歳くらいかしら？言ったら親馬鹿全開で写真攻めに合うから黙ってなさい」
　どうやら秘書課の誰かがその写真攻めに合ったのだろう。その事が禁句になるくらいだから相当なのかもしれない。
「初恋相手と結婚なんて夢があるけど、私からしたらその一人だけで決められる伊澄室長はすごいと思うわ。恋は重ねて重ねて見極めないと」
「そ、それれ澤永さんだから出来る事なのでは？」
　彼女の経験値とやらがどのようなものかはわからないが、聞く限りでは相当なのかもしれない。
「あぁ、そういえば例のアイドル。お怒りの伊澄室長が反撃に出たわよ。相変わらず仕事が早いわよね」
「は、反撃……なんだか想像したら怖いです」
「だから敵に回すような事だけはしない方が身のためって事ね々！」