モブだった私、今日からヒロインです！

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　とんだとばっちりでホテル生活を余儀なくされた陽菜。
「必要なものはCEO経費から落としますからご心配なく」
　ニコニコしながら伊澄は言う。CEO経費とは何だ？と疑問になりながらも、要はアレンの個別資金から出すらしい。
「そ、そんな事ダメですよ。必要なものは自分でなんとかします！」
「お気になさらず。どうせ使っても使っても減らないお金なんですから。今回のお騒がせ慰謝料とでも思っていて下さい」
　甘えてもよいのかと思いながらも、話が平行線になると伊澄から更なる圧をかけられそうだったので、素直に「はい」と言った。
「私共で用意できるものはしますが、女性にとって必要なものは澤永さんに言ってください」


　とりあえず必要とは言っても数日分の下着や衣類くらいなものだ。勝手に入られるのは嫌だが、アレンお抱えのＳＰなので変な事はしないだろうと思い、化粧品を持ってきてもらうのと、冷蔵庫の生物系を処分してもらうのをお願いした。
「あら、せっかくだから化粧品も買って貰えばいいのに」
　必要なものを澤永に言うと、サラリとそんな事を言われた。
「減らないお金とは言え、なんだか気が進まないというか……」
「私ならまず化粧落としから化粧水、保湿に乳液、スペシャルケアまで一つのブランドで統一するわよ。リップもちょうど欲しい物があったし、遠慮なく使わせてもらうわよ」
　容赦ない澤永の考えに陽菜は首を振るばかりだ。
「だいたいデートでお金出さない男なんてあり得ないわ」
「最近の子は割り勘らしいですよ」
「そこがおかしいのよ。自分から誘っておいて割り勘なんておかしいじゃない。エスコートもしないで前を歩く男も論外ね」
　なんとなくだが、澤永の彼氏となる人はハイスペックなのはわかるが、それ以上に外国仕込みなのでレディファーストが当たり前なのだなと思った。
「とりあえずCEO経費から必要なものは落としておきますので、夕方までには届くと思うわ」
「あ、ありがとうございます」
　なんだか迷惑ばかりかけているなぁと思いながらも、この御恩は仕事で一生懸命返しますと誓った陽菜だった。


　そして夕方。陽菜が用意されたのはスイートルームだった。
「ま、待って下さい！普通にシングルで十分なんですけど！」
　またも伊澄に抗議する陽菜。だがもちろん答えはノーだ。
「いいんですよ。CEO経費ですし、これくらいの部屋なら大した事ないですから」
「大した事ありますよ！スイートって最高級ですよね？」
「ご心配なく。別にエグゼグティブスイートではないですから」
　その部屋はアレンの部屋だ。だがここまでしてもらい気がひけるが折れないといけないのだ。
「それに澤永さんが注文した荷物もお部屋にありますし、運ぶのが大変です。諦めて下さい」
「運ぶのが大変？」
　嫌な予感がして中に入ると、数日の衣類とは思えない量の箱やハンガーにかかった服、紙袋があった。しかも箱や紙袋には有名ブランドのロゴ。
「ちょ、ちょっと待って下さい！このパンプス……ルブタン！」
　誘惑の赤いソールに細いヒール。一足ウン万は当たり前の靴。それだけでなく服もまた雑誌お馴染みのディオールからエミリオプッチなどなどの新作。
「これ、会社じゃなくてパーティドレスでは？」
　どこで着ればいいのか謎な服まで多数。ここにある物だけでどれだけの金額になるのやら。
「さ、澤永さん……人のお金だからって……」
　明日からこれを着なくてはいけないと思うと、とても辛くなった。