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「ん!」
無言で差し出された茶碗。いつの時代の亭主関白だ!と叫びたくなった陽菜は、黙って茶碗を受け取りご飯をよそぐ。
「こらアンリ。ヒナは召使いじゃないんだ。ご飯くらい自分でつぎなさい」
「……わかりました」
アレンの言葉ならば素直に聞くアンリは、少々不服そうだった。むしろ何故こんな状況になっているのか陽菜には謎で仕方ない。事の始まりはアンリが住み始めて次の日からだ。アレンが陽菜の部屋で晩御飯を食べていると、突然アンリがやって来たのだ。
そこからズルズルとアンリも陽菜の部屋で晩御飯を食べるという構図になっている。
「本当にごめんねヒナ。アンリのご飯まで用意させて」
その対価なのかどうか知らないが、先日振り込まれた今月の給料が大変な事になっていた。数字がいつも違うのだ。それを伊澄に問いただすと、伊澄はケロっとしていた。
「特別な秘書課ですからね。給与体系は他の部署とは少々異なります。それでなくとも山下さんにはアレンCEOの世話に加え、アンリ様の世話までしているようなものです。上乗せ分は功労金とでも思って下さい」
ニコリ微笑み、さっくりと言われてしまった陽菜は、その通帳を見ながら倒れそうにもなった。だがアレンからしたら「少ない。もう少し入れろ」と言っていて、伊澄も「畏まりました」と了承しそうになったので、陽菜はそれを必死に止めた。
(おかげで食材を買うのに余裕は出来ました)
食材一つとっても決して安いわけではない。三人分を今までの陽菜の給料から出せと言われたら、少しきついところがあったので、これはこれでよしとしようと思う事にした。
「オレはコロッケが食べたい!」
「あぁ、コロッケは準備に時間かかるからなぁ……するなら休みの日かな?」
「嫌だ。明日食べたい!」
そうわがまま放題なアンリに珍しくアレンの激が飛ぶ。
「アンリ。わがままはやめなさい。やめないとイギリスに連れて帰ってもらうよ」
「そ……それは嫌だ……」
こういうわがままもアレンがいればなんとかなる。アレンもアンリも単体だと手がつけられないのだが、アンリに対してのアレンの行動はありがたいものがある。そう感動したのはものの十秒程だが。
「でも僕もヒナお手製コロッケ食べたいな。もちろん週末でいいよ」
二の次にこれなのであまり変わらない気もしたが、まぁいいかと陽菜も了承する。
結局アンリ登場以降、アレンからの過度な求愛はさほどなく、たまにキスをされる程度だ。なんだか慣れてしまったなと思っていた陽菜自身、なんだか物足りなさも覚えていた。
(も、物足りないって何だ!)
自問自答しながらも日々を送る陽菜。慣れてくると次なるイベントが起こるのもまたお決まりのようだった。
「ヒナ!今日は水族館に行こう!」
「水族館?」
時刻は午後。まだまだ仕事があるのに何を言い出すのかと思った。
「ですが今日は会食がありますよ」
「どうせ身内の会食でしょ?なら伊澄がどうにかしてくれる」
そう名指しされた伊澄はもちろん「ダメですよ。今日の会食は商談込みです」と言って却下される。だが一度スイッチの入ったアレンを止める事など出来ない。
「でも最近ヒナと一緒にいる事も出来ないし、デートだってした事ないし……」
いじけはじめるアレンを見て、陽菜は伊澄に「どうにかして下ださい」と言った。伊澄も「仕方ありません」と言ってスケジュールの調整をする。なんだかんだとアレンに甘い伊澄。その分の対価もまた凄いのだが。
だが外せないスケジュールではあるので、商談後の夜に水族館へと向かう事になった。
無言で差し出された茶碗。いつの時代の亭主関白だ!と叫びたくなった陽菜は、黙って茶碗を受け取りご飯をよそぐ。
「こらアンリ。ヒナは召使いじゃないんだ。ご飯くらい自分でつぎなさい」
「……わかりました」
アレンの言葉ならば素直に聞くアンリは、少々不服そうだった。むしろ何故こんな状況になっているのか陽菜には謎で仕方ない。事の始まりはアンリが住み始めて次の日からだ。アレンが陽菜の部屋で晩御飯を食べていると、突然アンリがやって来たのだ。
そこからズルズルとアンリも陽菜の部屋で晩御飯を食べるという構図になっている。
「本当にごめんねヒナ。アンリのご飯まで用意させて」
その対価なのかどうか知らないが、先日振り込まれた今月の給料が大変な事になっていた。数字がいつも違うのだ。それを伊澄に問いただすと、伊澄はケロっとしていた。
「特別な秘書課ですからね。給与体系は他の部署とは少々異なります。それでなくとも山下さんにはアレンCEOの世話に加え、アンリ様の世話までしているようなものです。上乗せ分は功労金とでも思って下さい」
ニコリ微笑み、さっくりと言われてしまった陽菜は、その通帳を見ながら倒れそうにもなった。だがアレンからしたら「少ない。もう少し入れろ」と言っていて、伊澄も「畏まりました」と了承しそうになったので、陽菜はそれを必死に止めた。
(おかげで食材を買うのに余裕は出来ました)
食材一つとっても決して安いわけではない。三人分を今までの陽菜の給料から出せと言われたら、少しきついところがあったので、これはこれでよしとしようと思う事にした。
「オレはコロッケが食べたい!」
「あぁ、コロッケは準備に時間かかるからなぁ……するなら休みの日かな?」
「嫌だ。明日食べたい!」
そうわがまま放題なアンリに珍しくアレンの激が飛ぶ。
「アンリ。わがままはやめなさい。やめないとイギリスに連れて帰ってもらうよ」
「そ……それは嫌だ……」
こういうわがままもアレンがいればなんとかなる。アレンもアンリも単体だと手がつけられないのだが、アンリに対してのアレンの行動はありがたいものがある。そう感動したのはものの十秒程だが。
「でも僕もヒナお手製コロッケ食べたいな。もちろん週末でいいよ」
二の次にこれなのであまり変わらない気もしたが、まぁいいかと陽菜も了承する。
結局アンリ登場以降、アレンからの過度な求愛はさほどなく、たまにキスをされる程度だ。なんだか慣れてしまったなと思っていた陽菜自身、なんだか物足りなさも覚えていた。
(も、物足りないって何だ!)
自問自答しながらも日々を送る陽菜。慣れてくると次なるイベントが起こるのもまたお決まりのようだった。
「ヒナ!今日は水族館に行こう!」
「水族館?」
時刻は午後。まだまだ仕事があるのに何を言い出すのかと思った。
「ですが今日は会食がありますよ」
「どうせ身内の会食でしょ?なら伊澄がどうにかしてくれる」
そう名指しされた伊澄はもちろん「ダメですよ。今日の会食は商談込みです」と言って却下される。だが一度スイッチの入ったアレンを止める事など出来ない。
「でも最近ヒナと一緒にいる事も出来ないし、デートだってした事ないし……」
いじけはじめるアレンを見て、陽菜は伊澄に「どうにかして下ださい」と言った。伊澄も「仕方ありません」と言ってスケジュールの調整をする。なんだかんだとアレンに甘い伊澄。その分の対価もまた凄いのだが。
だが外せないスケジュールではあるので、商談後の夜に水族館へと向かう事になった。
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