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第十三章
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「ねぇ、盈月。ここに来てる間、眉間に皺を寄せるのはやめて」
「そんな顔をしているのか?」
弱々しく「している」と言って、盈月の顔に手を添えた莉春。
今日は体調が安定していたのもあり、起き上がって炎珠と三人親子水要らずで仁夢殿の庭にいた。
この所の体調は悪化していくばかりで、吐血の回数も増えた。時には意識を失い三日三晩目を覚ます事がない日もあった。その度に盈月は肝が冷えている。
食べる気力も徐々になくなり、ふっくらしていた頬は削げ落ちていた。そんな莉春を見るたび盈月の胸は締め付けられるような気持ちを味わっていた。
「莉春。何か私に願いたい事はないか?」
「願い?」
「あぁ。欲しい物でもやりたい事でもいい。何でも言ってくれ」
突然そんな事を言われた莉春は、本当に自分が最期に向けているのだと悟る。だが盈月の好意を無駄にしたくもない。
「白百合……」
「白百合?」
「えぇ。初めて盈月から贈られたもの。私にとってはとても大切な想いでよ。だから私の棺には白百合を入れて。そうしたら無事黄泉の国に行けるわ」
「そ、そんな事させない!」
「聞いて。私自身が一番わかってるわ。もう最期なのは。だから聞いて欲しいの。最期の時、私の化粧は盈月にお願いしたいわ」
愛する者から施される化粧。それは婚儀の時のみ行われる。最後の一つ、愛する者から施される化粧には永遠を意味する。
莉春は盈月に永遠の愛を誓うと言うのだ。それは死してなおも続くのだと。
「それと炎珠を……この後宮から出して」
「炎珠を?何故だ」
「私がいなくなった後、炎珠は真っ先に狙われるはず」
「そんな事、絶対させない」
「でも逐一後宮内を見てるわけではないでしょ?盈月の寵愛を得ている私を恨む者は多いわ。それは誰であってもそう。後宮はそういう場所なの。だから炎珠を守る為にもここから出して」
もし娘を傷つけるものがいるなら許さないと思ったが、莉春の言う事も一理ある。とは言え養女になど出すのは御免だ。炎珠は自分と莉春の子供だ。
「わかった。そなたも私も納得がいくようにしよう」
「ありがとう……こうしていられる時間がとても幸せ。でも哀しいのは、貴方を一人残す事と、炎珠の成長を見届けられない事かしら」
「大丈夫だ。莉春と私の子だ。莉春に似てしっかりした子に育つ。何も心配する事はない」
「そうね……」
庭先で蝶を追いかける莉春を見つめながら、この時期がいつまでも続けばいいと思った。
それから五日後。楊莉春は病により崩御する。享年二十二だった。
「そんな顔をしているのか?」
弱々しく「している」と言って、盈月の顔に手を添えた莉春。
今日は体調が安定していたのもあり、起き上がって炎珠と三人親子水要らずで仁夢殿の庭にいた。
この所の体調は悪化していくばかりで、吐血の回数も増えた。時には意識を失い三日三晩目を覚ます事がない日もあった。その度に盈月は肝が冷えている。
食べる気力も徐々になくなり、ふっくらしていた頬は削げ落ちていた。そんな莉春を見るたび盈月の胸は締め付けられるような気持ちを味わっていた。
「莉春。何か私に願いたい事はないか?」
「願い?」
「あぁ。欲しい物でもやりたい事でもいい。何でも言ってくれ」
突然そんな事を言われた莉春は、本当に自分が最期に向けているのだと悟る。だが盈月の好意を無駄にしたくもない。
「白百合……」
「白百合?」
「えぇ。初めて盈月から贈られたもの。私にとってはとても大切な想いでよ。だから私の棺には白百合を入れて。そうしたら無事黄泉の国に行けるわ」
「そ、そんな事させない!」
「聞いて。私自身が一番わかってるわ。もう最期なのは。だから聞いて欲しいの。最期の時、私の化粧は盈月にお願いしたいわ」
愛する者から施される化粧。それは婚儀の時のみ行われる。最後の一つ、愛する者から施される化粧には永遠を意味する。
莉春は盈月に永遠の愛を誓うと言うのだ。それは死してなおも続くのだと。
「それと炎珠を……この後宮から出して」
「炎珠を?何故だ」
「私がいなくなった後、炎珠は真っ先に狙われるはず」
「そんな事、絶対させない」
「でも逐一後宮内を見てるわけではないでしょ?盈月の寵愛を得ている私を恨む者は多いわ。それは誰であってもそう。後宮はそういう場所なの。だから炎珠を守る為にもここから出して」
もし娘を傷つけるものがいるなら許さないと思ったが、莉春の言う事も一理ある。とは言え養女になど出すのは御免だ。炎珠は自分と莉春の子供だ。
「わかった。そなたも私も納得がいくようにしよう」
「ありがとう……こうしていられる時間がとても幸せ。でも哀しいのは、貴方を一人残す事と、炎珠の成長を見届けられない事かしら」
「大丈夫だ。莉春と私の子だ。莉春に似てしっかりした子に育つ。何も心配する事はない」
「そうね……」
庭先で蝶を追いかける莉春を見つめながら、この時期がいつまでも続けばいいと思った。
それから五日後。楊莉春は病により崩御する。享年二十二だった。
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