一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十三章

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 皇帝の名を出され莉春も思い直したのか、「そうね」と一言だけ言った。その様子から誰にも知られる事なく一人この病を抱えていたのだろう。そしてそれが不治のものとも知っていたのだ。
「いつからなのですか?」
「もう随分と昔でわからない。けど誰かの放った毒とかではないわ。だから誰も責めないし、これは運命なんだと思う」
「ですが……皇帝に言えば名医を探してくれてでしょうに」
「この病が駄目なのは自分が一番よくわかっているわ。だからね。この先もし何かあった時、炎珠や主上の事をあなたに頼みたいの」
 不治の病は今も莉春の体を蝕み続けている。何も出来ず、何も気が着けなかった自分が不甲斐なく星永は莉春の手をとり涙を流した。
「自分を責めないで。これは誰のせいでもないの。お願いだから気を落とさないで」
「ですがこのままではあなたはいずれ……」
「そうだね。早く戻って炎珠の顔が見たいわ。もう二月も会ってないし、あの子も寂しがっているはず」
「すぐに戻れるよう手配します!」
 病を患った莉春を安定させながら、だが早く戻れるよう星永は手配を急ぐ。


 星永からの文を受け取った冠耀は、その文を読んで深く椅子に座り込んだ。
「そんな……莉春が……」
 その事実に冠耀の顔からは血の気がなくなっていく。側にいた丞黄じょうきもその文を読んだ。そしてすぐに侍医が呼び出された。
「何故すぐに言わなかったのだ!」
「申し訳ございません!楊夫人より強く口留めをされていまして。もちろん罰を受けます!どうぞ私共に罰をお与え下さい!」
「それで……ここにいた時の莉春の容態はどうだったのだ?」
「私共で薬の提供等を行いましたが、改善の傾向が見えず不治の病と診断させてもらいました」
 この世に治せぬ病があってたまるかと、莉春が戻り次第すぐに治療が受けられるよう、冠耀は国中の侍医や薬師を城に呼んだ。
 それから二日後、莉春はようやく戻って来た。
「莉春……」
 星永に抱えられて戻って来た莉春は、今は薬を飲んで眠っているようだが、その二月ぶりの姿に歓喜した。
「主上……楊夫人は今は落ち着いてますが、咳が徐々にひどくなり……」
「すぐに侍医に診せる」
 星永から莉春を受け取った冠耀は、すぐに仁夢殿へと莉春を運んだ。莉春の側使いの風華も、喜びと悲しみで涙を流していた。
「莉春様……私がもっと注意深く莉春様を見ていれば」
 誰にも気づかれず、侍医とのみの病について交わしていた莉春の徹底ぶりには誰もが圧巻した。だがそうとわかっていたならば国外へと出さなかった。ずっとこの城で治療をさせていたのだ。後の祭りとはいえ、ここにいた誰もが後悔する。
 まだ幼く事の詳細がわからない炎珠は、久々の母との再会に喜んでいた。
「母!母!どうして寝てる!起きて!」
 眠る莉春の布団を叩く炎珠を冠耀は抱き上げた。
「母上は長旅で疲れている。そっとしておいてやれ」
「あい!父!」
 どうしてこうも悲しい事が続くのだろうか。自分には夫を名乗る資格などないと冠耀は自分を責めたが、抱きかかえる炎珠は「父!父」と冠耀の名を呼ぶ。この子を残して死なせる事などさせない。冠耀は莉春の治療に全力を注ぐよう侍医達に言った。
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