一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十三章

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「それと……水問題が解決したら是非試してみて欲しい事があります」
「試して欲しい事?」
「はい。病の原因は水不足の場合と、水そのものの問題があります。元の世界にいた時、私は化学者をしていました。その土地の土壌によっては水に微生物がいる場合もあり、その微生物がなんらかの影響を及ぼす事もあります」
 沙季は急に難しい事を言い始めた。正直何を言っているのかわからなかったが、後にこの事が国を救う手立てとなる。
「普段生活する水と口にする水の系統は分けてください。口にする水は煮沸や濾過した方がいいです」
「す、すみません。話が難しくて……面倒とは思いますが紙に書いていただかるとありがたいです」
「……そうですね。つい熱くなってしまいました」
 自分には難しい話だ。だが意外と星永は真剣に話を聞いていたので、いくらかは理解出来たのだろう。
「とりあえず全てが整うまではこの国に滞在するのだろう?宿の手配をしておこう」
「あ、ありがとうございます!」
 そう言って莉春は頭を深々と下げた。


 二人に用意された宿は、この国では一級に当たる宿だ。普通の安宿でも構わないと莉春は言ったが、「他国の夫人に粗末な宿を提供出来ない」と言われた。
 一人で泊まるには豪華な部屋で、莉春は袖から玉佩を取り出した。
「炎珠。盈月……ついにここまでやって来たよ。もうすぐで帰るからね」
 旅に出てから毎夜、莉春は玉佩を握っては娘と夫の事を想い続けた。
「……ごほっ!」
 突然胸がつかえたので、手拭で口元をおおい咳をした。
「……あぁ、早く会いたいな」
 手拭いには赤い鮮血が着いてた。


 異変を感じたのは炎珠を産んでからしばらくしてだった。
 手足の痺れがなかなか消えない中、小さな咳もし始めた。だがその時はなんとまないと思い放置していた。
 だが咳は年々ひどくなっていった。莉春は必死に風華や盈月達に知られないように隠し、侍医に自分の症状を看てもらった。
「楊夫人の症状を改善する為の薬は、私共ではもうお役に立てそうにありません」
 そう言って侍医からは匙を投げられた。要は不治の病なのだ。これが後遺症なのかはわからない。だがある日突然咳が出なくなった。完治はしていないが、今はそれでもいいと思った。ちょうど盈月が政務に追われ始めた頃だったので、本人には言いたくなかった。
 しかし国を経つ前からまた咳が出始めた。今度は血が混じる事があった。
 炎珠を産んだのは自分の意思。子のせいでもなければ恨んでもいない。もしそれが自分の運命ならば受け止める気持ちでいた。愛する者との子を授かった事が、莉春にとって何よりも嬉しい事だ。
 だから後遺症だとしてもそれはそれで構わない。しかし沙季から聞いた話で少し納得出来た部分もある。
 水による病気も否定出来ない。もしかしたら自分はその影響を受けたのかもしれない。もしそうならば、自分のような者を増やすわけにはいかない。沙季の言っていた対策を講じる必要がある。
 だが問題は自分だ。このまま死を待つだけなのか。それとも優れた侍医を世界中から見つけ出せば治るのか。
 何より、再び炎珠をこの手で抱く事が出来るのか。いや、必ず戻る。そして炎珠や盈月と一日でも長く生きるのだと炎珠は決意した。
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