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第十三章
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莉春と星永の走らせる馬は、順調な旅を歩んでいた。今の所は開けた場所を通っている事もあり、賊に出くわす事はない。町から町へとそつなく移動させていった。
今宵もなんとか町に辿り着き、宿に泊まる事が出来た。
自分から言い出した事だ。だがやはり、莉春の心には我が子の炎珠の事が頭をよぎった。ちゃんとやっているだろうか。寂しい思いをさせて本当にごめんなさいと、莉春は盈月から手渡された玉佩を握りしめながら呟く。
「炎珠……盈月」
愛しい者達との未来の為、莉春はこうして水の御使いがいるという国に行く。まだ道はあるが、出来るだけ早く到着したい。
事件が起こったのはそれから一週間程してからだった。水の御使いがいる国へと向かう際、大きな森が二人の前に立ち向かう。ここを通らなくてはいけないのだが、森は賊が最も出やすい場所だ。
「莉春様!絶対に私から離れないように!」
「わかったわ!」
馬の手綱さばきには慣れているとはいえ、やはり日頃から乗っているような星永のようには早く走らせる事は出来ない。薄暗く空気の重たい森の中で、気配を殺しながら前へと進む。そんな時だった。
「莉春様!」
莉春の馬目掛け矢が飛んできた。星永は自分の馬を犠牲にして莉春を矢から守る。やはりこの森には賊がいたのだ。星永は剣を抜き周囲を警戒する。するとぞろぞろと賊らしき人物が姿を見せ始めた。その数は二十程。さすがにこの数を星永一人で相手にするのは無理だ。そう莉春は思った。
「莉春様はこのまま先へ進んで下さい」
「駄目よ!そんな事させられない」
「私なら大丈夫です。さぁ、早く行って下さい」
そう言って星永は莉春の馬の尻を叩いた。上半身が持ち上がった馬は、咆哮を上げ駆け始める。
「待って!星永!星永!」
勝手に走る馬をどうにか止めようとした莉春だが、興奮した馬はそのまま走り続ける。後ろを振り返ると星永が賊と対峙している。自分が戻った所で何の役にも立たないのは百も承知だ。だが見捨てる事など出来ない。この暴れ馬を止めなくては向かえない。だが馬は莉春の声など聞いてはくれない。
「お願い!止まって!止まって!」
必死で手綱を引く莉春。すると細い道から一頭の馬がやってきた。
「どう!どう!」
ぐっと力強く手綱を引かれ、馬も落ち着き始めたのか徐々に足を緩める。
「危ない所だったな。この先は崖だ。落ちたら命はない」
そう言って莉春を助けてくれたのはどこか落ち着きをはらった男だった。刻まれたしわに髭をたくわえ、服装はどこかの兵士かと思うほどの金に細かな彫があるの鎧を着た人物だった。腰には玉佩がある事から、それなりの身分だとわかる。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばない。ここは賊の出没も多い。気を付けるのだ」
賊と聞き、星永が一人戦っている事を思い出した。
「お願いします!この先で私の連れが賊と一人戦っているのです!助けて下さい!」
「ふむ。ではそなたはそこで待っているがいい」
それだけ言うと男は莉春が来た道を戻って行った。
今宵もなんとか町に辿り着き、宿に泊まる事が出来た。
自分から言い出した事だ。だがやはり、莉春の心には我が子の炎珠の事が頭をよぎった。ちゃんとやっているだろうか。寂しい思いをさせて本当にごめんなさいと、莉春は盈月から手渡された玉佩を握りしめながら呟く。
「炎珠……盈月」
愛しい者達との未来の為、莉春はこうして水の御使いがいるという国に行く。まだ道はあるが、出来るだけ早く到着したい。
事件が起こったのはそれから一週間程してからだった。水の御使いがいる国へと向かう際、大きな森が二人の前に立ち向かう。ここを通らなくてはいけないのだが、森は賊が最も出やすい場所だ。
「莉春様!絶対に私から離れないように!」
「わかったわ!」
馬の手綱さばきには慣れているとはいえ、やはり日頃から乗っているような星永のようには早く走らせる事は出来ない。薄暗く空気の重たい森の中で、気配を殺しながら前へと進む。そんな時だった。
「莉春様!」
莉春の馬目掛け矢が飛んできた。星永は自分の馬を犠牲にして莉春を矢から守る。やはりこの森には賊がいたのだ。星永は剣を抜き周囲を警戒する。するとぞろぞろと賊らしき人物が姿を見せ始めた。その数は二十程。さすがにこの数を星永一人で相手にするのは無理だ。そう莉春は思った。
「莉春様はこのまま先へ進んで下さい」
「駄目よ!そんな事させられない」
「私なら大丈夫です。さぁ、早く行って下さい」
そう言って星永は莉春の馬の尻を叩いた。上半身が持ち上がった馬は、咆哮を上げ駆け始める。
「待って!星永!星永!」
勝手に走る馬をどうにか止めようとした莉春だが、興奮した馬はそのまま走り続ける。後ろを振り返ると星永が賊と対峙している。自分が戻った所で何の役にも立たないのは百も承知だ。だが見捨てる事など出来ない。この暴れ馬を止めなくては向かえない。だが馬は莉春の声など聞いてはくれない。
「お願い!止まって!止まって!」
必死で手綱を引く莉春。すると細い道から一頭の馬がやってきた。
「どう!どう!」
ぐっと力強く手綱を引かれ、馬も落ち着き始めたのか徐々に足を緩める。
「危ない所だったな。この先は崖だ。落ちたら命はない」
そう言って莉春を助けてくれたのはどこか落ち着きをはらった男だった。刻まれたしわに髭をたくわえ、服装はどこかの兵士かと思うほどの金に細かな彫があるの鎧を着た人物だった。腰には玉佩がある事から、それなりの身分だとわかる。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばない。ここは賊の出没も多い。気を付けるのだ」
賊と聞き、星永が一人戦っている事を思い出した。
「お願いします!この先で私の連れが賊と一人戦っているのです!助けて下さい!」
「ふむ。ではそなたはそこで待っているがいい」
それだけ言うと男は莉春が来た道を戻って行った。
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