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第十二章
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翌、朝廷で正式に李星永の禁軍中将軍任命の勅命が下された。その報に驚いたのは年若い官吏くらいで、老臣はさほど驚いてはいなかった。なるべくしてなったのだろう。星永が官吏として花開くにはかなりの年数と苦難がある。だが軍部ならば別だ。もちろん名門の門下生である事も重要視されるが、何よりも軍は実力が大切だ。知恵と力、そして苦難を乗り越える運がなければ這いあがれない。それを考えれば星永が禁軍へに入る事への納得も出来た。
だが莉春については伏せられたままだ。さすがに表立って後宮の者が外の国へ向かう事は問題である。よって他国へ向かう事は伏せられたままでいた。
莉春が出立するのは三日後の明朝。
護衛は星永のみだが、馬は二頭。莉春は元々農村育ちだった事もあり、馬の扱いには慣れているようだった。たったの三日だが、その間に星永は周将軍の元で剣の手ほどきを受けていた。
そして莉春が出立する前日。その人物は突然やって来たのだ。
「星蘭殿……」
蘆眞房に現れたのは星永の父、李星蘭だった。まだ官吏にいた頃の星蘭から比べると、若干歳はとっているが、あまり年齢を感じさせない。
「周将軍名義でこちらに入殿させてもらいましたが、あの頃とは何も変わりませんね」
「そなたにそう言われては我としては褒められた気はしないのだが」
「褒めてはいません。ですが、あの頃の鼻たれ小僧よりは幾分ましな顔にはなりましたが」
この歯に衣着せぬ言い方こそが有能の吏部尚書と言われた星蘭だ。これでも本当に褒められたもので、本当にひどければとことん貶す。それが先帝だろうが皇帝だろうが関係ない。
「それで、そなたがここに来たという事は、もしかしなくても星永の事か?」
「えぇ、それもありますよ。なにせ私のかわいい息子を安全な官吏から危険な軍部になど変更させた周将軍と貴方には少々恨みすら覚えます」
「だろうな。しかしそれは星永の望んだ事だ。我はその意志を汲んだまで」
「わかっていますよ。あの子は馬鹿ではない。あのままいても地位は望めない事くらいは」
さすがは星永の父というべきだろう。全てお見通しなのだなと冠耀は思った。
「さて、話はそんな事ではありません。これから来る病の進行を抑える為、斎楊佳と話をつけました」
「斎楊佳と?」
「なんでも貴方のところの嫁が斎楊佳宛てに文を寄こしたとか?それ見て斎楊佳は承諾に二文字を返した。ですがその飛び火が私の元にまで来たのですよ」
聞けば斎楊佳は実家や娘とやり取りをし、医師の派遣や薬の処方に至るまで、病に関しての一連に手を貸すとの事だ。だが今後運び込まれる病人の数などを考えた際、斎楊佳の住まいを開けただけでは足りないだろう。足りない部分を補う為に李家を開けろと文で言い放ったそうだ。
「全く……かわいい息子を軍部に入れられただけではなく、もう国と干渉する事のない私にまで白羽の矢を立てるとは、斎楊佳もあなどれない女子だ。しかもこの事に星永も賛成だという。静かに隠居していた私になんという扱い」
もちろんこの件に関して彼の妻である栄里も賛成したという。国においては有能な官吏であった星蘭も、一歩外に出ればその有能さが也を潜めるらしい。
だが莉春については伏せられたままだ。さすがに表立って後宮の者が外の国へ向かう事は問題である。よって他国へ向かう事は伏せられたままでいた。
莉春が出立するのは三日後の明朝。
護衛は星永のみだが、馬は二頭。莉春は元々農村育ちだった事もあり、馬の扱いには慣れているようだった。たったの三日だが、その間に星永は周将軍の元で剣の手ほどきを受けていた。
そして莉春が出立する前日。その人物は突然やって来たのだ。
「星蘭殿……」
蘆眞房に現れたのは星永の父、李星蘭だった。まだ官吏にいた頃の星蘭から比べると、若干歳はとっているが、あまり年齢を感じさせない。
「周将軍名義でこちらに入殿させてもらいましたが、あの頃とは何も変わりませんね」
「そなたにそう言われては我としては褒められた気はしないのだが」
「褒めてはいません。ですが、あの頃の鼻たれ小僧よりは幾分ましな顔にはなりましたが」
この歯に衣着せぬ言い方こそが有能の吏部尚書と言われた星蘭だ。これでも本当に褒められたもので、本当にひどければとことん貶す。それが先帝だろうが皇帝だろうが関係ない。
「それで、そなたがここに来たという事は、もしかしなくても星永の事か?」
「えぇ、それもありますよ。なにせ私のかわいい息子を安全な官吏から危険な軍部になど変更させた周将軍と貴方には少々恨みすら覚えます」
「だろうな。しかしそれは星永の望んだ事だ。我はその意志を汲んだまで」
「わかっていますよ。あの子は馬鹿ではない。あのままいても地位は望めない事くらいは」
さすがは星永の父というべきだろう。全てお見通しなのだなと冠耀は思った。
「さて、話はそんな事ではありません。これから来る病の進行を抑える為、斎楊佳と話をつけました」
「斎楊佳と?」
「なんでも貴方のところの嫁が斎楊佳宛てに文を寄こしたとか?それ見て斎楊佳は承諾に二文字を返した。ですがその飛び火が私の元にまで来たのですよ」
聞けば斎楊佳は実家や娘とやり取りをし、医師の派遣や薬の処方に至るまで、病に関しての一連に手を貸すとの事だ。だが今後運び込まれる病人の数などを考えた際、斎楊佳の住まいを開けただけでは足りないだろう。足りない部分を補う為に李家を開けろと文で言い放ったそうだ。
「全く……かわいい息子を軍部に入れられただけではなく、もう国と干渉する事のない私にまで白羽の矢を立てるとは、斎楊佳もあなどれない女子だ。しかもこの事に星永も賛成だという。静かに隠居していた私になんという扱い」
もちろんこの件に関して彼の妻である栄里も賛成したという。国においては有能な官吏であった星蘭も、一歩外に出ればその有能さが也を潜めるらしい。
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