一輪の白百合をあなたへ

まぁ

文字の大きさ
上 下
89 / 105
第十二章

2

しおりを挟む
「周将軍。何度も私は申しましたが、禁軍に入るつもりは……」
「おうおう。確かに星蘭せいらん譲りのいい頭らしいが、本当に守りたいものがある時、今の場所じゃ何にも守れないぞ」
「どういう意味ですか?」
「お前第三夫人のとこのお嬢ちゃんの面倒見てるんだってな。一応主上命令とは言え、今の立ち位置じゃ本当に守りたい時守らないぞ」
 何が言いたいのかはなんとなくわかる。有能な官吏など沢山いる。それに自分は冠燿の許しがあって官吏でいながら莉春達の側にいる。本来それは出来ないこと。
「お前のいる場所なんざそこの長の門下生が継ぐようなもんだ。だが禁軍は完全実力を俺が通してる。それに俺も歳だ。もう少し待てばすぐに席が空くぞ」
「有り難い申し出ですが、周将軍は私を買いかぶりすぎです。そんな実力などありません」
「これだから官吏のお偉いさんは謙遜ばかり。俺がお前をそう見たんだ。お前には素質がある。まぁ、どうしてもっていうなら仕方ないが、力が欲しけりゃいつでも俺の所へ来い」
 そう言って周将軍はその場を後にした。
 守りたいものを守る時。あまり実感がないだけなのかもしれないが、今の星永に軍に入る気持ちは全くない。
「その気になれば……という事か」


 盧眞房へとやって来た星永が開口一番に何を言い出すかと思えば、水を使役する国についての話だった。
「そなたにしては珍しい事を話すものだな」
「これは私というよりはよう夫人からと言った方が正しいです」
「莉春が?」
 星永は莉春が水問題や病問題などについて冠燿の手助けをしたいという事。それにまつわる解決の糸口として紫水殿に書物がある事。そして……
「これは楊夫人が言っていた事ですが、病はすでに紫水殿内にも蔓延しているとか」
「なんだって?」
「女官長の景美もまた病に伏しているとの事です」
 その話を聞いて冠燿の表情からみるみる血の気が引いていくのがわかった。
「それがまことなら様子を見に……」
「なりません!主上のお体に障ります。あなたはこの国の主なのです。もう少し自覚をお持ち下さい」
「そ、そうだな……」
 冠燿にとってもまた景美と言う女官長は特別な存在なのらしい。だからといって一国の主を危険な場所に行かせられない。
「私が様子を見て参ります。ついでに紫水殿にある書物についても確認して参りますので、入殿の許可をお出し下さい」
 この惨事に私事を通す事は出来ない。ここは星永に託す事にした冠燿は、すぐに許可を許す旨を書いた書簡を星永に渡す。
「こんな時に神頼みでしか出来ない我は本当に無能だ」
「主上……」
 いつもにも増して弱音を吐いた冠燿に、丞黄じょうきはその先の言葉を紡げないでいた。
 一年前は偉蓮華いれんか先立って皇后鄭妃の死。様々な事が一気に起こり、冠燿自身も疲弊していた。
 この雨が降り続くのではなく、定期的に降ってくれたらよい。そう丞黄はねがった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花ひらく妃たち

蒼真まこ
ファンタジー
たった一夜の出来事が、春蘭の人生を大きく変えてしまった──。 亮国の後宮で宮女として働く春蘭は、故郷に将来を誓った恋人がいた。しかし春蘭はある日、皇帝陛下に見初められてしまう。皇帝の命令には何人も逆らうことはできない。泣く泣く皇帝の妃のひとりになった春蘭であったが、数々の苦難が彼女を待ちうけていた。 「私たち女はね、置かれた場所で咲くしかないの。咲きほこるか、枯れ落ちるは貴女次第よ。朽ちていくのをただ待つだけの人生でいいの?」  皇后の忠告に、春蘭の才能が開花していく。 様々な思惑が絡み合う、きらびやかな後宮で花として生きた女の人生を短編で描く中華後宮物語。 一万字以下の短編です。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】異世界転生でギャルゲーの主人公になったけど攻略対象外キャラにここまで熱烈に溺愛されるなんて聞いてない!

Ask
恋愛
【堂々完結】日本のギャルゲー(乙女ゲームの男性版)『理想郷の宝石』の主人公に転生したけど攻略対象キャラ全員好みではなく好感度を上げてなかったらまさかの断罪イベント発生!?窮地に立たされた主人公を救ったのはゲームには出てこなかった"元龍神"と"生贄皇子"の血を受け継ぐ大帝国のハイスペック皇女で……?!これは、"男前過ぎるハイスペ人外皇女"と"乙女系女子力高め男主人公"がお互いを溺愛しまくる話です※前作の登場人物、過去の話も出ますので宜しければ見てください※前作とは作風一気に変わります※小説家になろう様でも投稿しています※ 第1部→【完結】転生したらヒロインでも悪役令嬢でもなく世界征服してる龍神の後継者だったのでこの世界の常識をぶっ壊してみようと思います!

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

処理中です...