一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十一章

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 干ばつによる余波は様々な所にしわ寄せとして押し寄せる。まずは農村の者達が国へ治める作物の税収だ。本来は三割を国に納めなくてはいけないが、収穫した作物から通年の三割を収めると、商家などへ売りに出される物が減る。もちろん自分達の取り分もだ。それは売りての商人にもひっ迫する事で、国内の市場などに卸される物が少なくなる。
 また日照りが続くと虫も問題だ。虫による作物の被害も甚大。それに加え病が流行っている。この状況をどうにかする為、官吏達もまた頭を悩ませている所だ。
「今よりも引く川を増やすのはいかがでしょうか?」
「それをするには時間がかかる」
「それ以前に川の水も徐々に干上がってきているという話も聞くが?」
 様々な話は持ち上がるが、今の所全てを打破する案件は一つもない。このままでは大飢饉に人々は喘ぐ。そして治安の悪化も懸念される所だ。
「せめて雨だけでも降ってくれたらいいのだがな……」
 天を左右する方法など誰も知らない。それが出来るとしたら神だけだ。果たしてそんな優れた水の神などいるものか。聞いた事もない。もうどうしようもないのか。そう官吏達の中には半場諦め気味の者もいた。


「全ての物事に水はどうしても大切なのね」
 いつものように炎珠を連れた莉春と風華が池のほとりにいた。水問題はこの城内にも徐々に迫っている。いつもは満水で、その底は見えないとも言われている池の水位は若干ながら減っている気もする。
「この国の御使いは子宝と豊穣とは言うけど、御使いもいなければ、豊穣の為の水もまた降らない」
「莉春様。これは本当かどうかは知りませんが、私の古い親戚に水を司る御使いがいる国があるのだと聞いた事はあります」
「本当に?けどそれってどこにあるのかしら?」
「さぁ……そこまでは。ですが神に縋ると言うならばそれを調べるのもまた一つかと?」
「そうね。今の状況は神にも縋りたくなるわよね」
 だが手がかりがないのではどうしようもない。そう考えている時、ふと莉春はあの場所ならば何かわかる事があるのではないかと思った。
「ねぇ風華。御使いの為の神殿ならこの国にもあるわ。紫水殿しすいでんなら何かあるのじゃないかしら?」
「ですが外に出る事は叶わないですよ」
 その昔、盈月が紫水殿へと行くために使用していた後宮から繋がる道は封じられた。どんな状態になっているかはわからない。だが行くならばあそこしかない。莉春は意を決して紫水殿へと向かう事を決意した。


 夜になり、莉春は身動きのとりやすい服装に着替えた。炎珠はぐっすり眠っており、朝までは目覚めないはずだ。盈月もここ最近の忙しさでこちらに来ることもない。封鎖された場所の状況を見て無理そうならば引き返すが、大丈夫そうなら行こう。そう思って旭庄宮きょくしょうきゅうを出た時だった。
「こんな夜更けに何をしているの?」
 その声の主は呉聖葉ごせいよう太妃だった。
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