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第十一章
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「ご機嫌いかがかしら?」
玉聖宮にやって来た鄭妃を蓮華は睨みつけるような目で見ていた。いつもは髪も化粧も飾り立てていた蓮華だが、何もしていない状態でいる。
「何の用?落ちぶれた私を見に来たの?」
「そんな風に言わないでで頂戴。今日はあなたの好きそうな料理をお持ちしたのよ」
そう言うと鄭妃の侍女は卓の上に料理を並べた。それを一度だけ見て蓮華はそっぽ向いた。
「あなたと私が入宮してもう何年経つかしら?まさかあなたがこんな風になるとは思ってもみなかったけど……」
「帰って下さるかしら?こんな私をあざ笑いに来るなんて、皇后ともあろうあなたにしては趣味が悪いわね」
「そう邪見にしないで頂戴。こんな状態になってもなおここに留まるあなたに敬意を表してるのだから。けど……さすがにこの後宮では肩身が狭くなってしまった模様ね。あの分不をわきまえない楊莉春よりもその地位を落とすなんて。私だったら自害してしまうところよ」
偉家という名前がある間はここまで露骨に嫌味を言ってこなかった鄭妃が、ここぞとばかりに蓮華を攻撃している。この腹の据わった女の本性を最後の最後で見れた蓮華も反撃に出た。
「ここ数年大人しくしていたと聞いたけど、それは病が進行しているって噂は本当なのかしら?」
「さて、どこでそんな噂を耳にしたのかわからないけど、私は至って普通よ」
「そう?そのわりには顔色はあまり良くはないわね」
「毒におかされたこの場所にいるからかしら?早いうちにここを出ますわ。それじゃ」
微笑を浮かべた鄭妃が身をひるがえした時、蓮華がここぞとばかりの罵詈雑言を鄭妃に向かって言う。
「私の寵愛など当に尽きている。それはあなたも一緒よ!あなたはそう長く生きられないわ!病が蝕むのが先か、楊莉春によってその身を地に落とされるか!私は地獄であなたの事を待っていてあげる!」
玉聖宮を出た鄭妃は小さくせき込む。それを見た侍女が鄭妃を支えた。
「鄭妃様!やはり無理は禁物です」
口元に当てていた手ぬぐいには血が少量付着していた。自身の寿命がそう長くない事を鄭妃自身悟っている。病は数年前から始まっていた。それこそ莉春達がこの後宮に入宮するより前から。
「その昔、蓮華に毒を盛られた時から、あの者はいつか地獄へ落としてやると思ったけど、この調子だと勝手に落ちそうね」
皇帝の寵愛を自分だけのものにし、そしてあわよくば自分を皇后の座へ。そういう思惑の元、侍医にも見抜けぬ程の極少量の毒を食事に盛られていたと気が付いたのは、小さな咳が始まりだった。それは年々酷くなる一方で、鄭妃は以後、咳止めのと中和の薬が手放せなくなっていた。
「共に苦楽を共にしてきた者が消えゆくのは残念なものね」
おそらく蓮華は近いうちに自害するだろう。何も後ろ盾がなくなった今、この後宮にいても仕方がない。それを追うように、そう遠くない未来自分も後を追うはずだ。
「全く……これじゃ蓮華の言霊がそのまま実行されそうで嫌だわ」
玉聖宮にやって来た鄭妃を蓮華は睨みつけるような目で見ていた。いつもは髪も化粧も飾り立てていた蓮華だが、何もしていない状態でいる。
「何の用?落ちぶれた私を見に来たの?」
「そんな風に言わないでで頂戴。今日はあなたの好きそうな料理をお持ちしたのよ」
そう言うと鄭妃の侍女は卓の上に料理を並べた。それを一度だけ見て蓮華はそっぽ向いた。
「あなたと私が入宮してもう何年経つかしら?まさかあなたがこんな風になるとは思ってもみなかったけど……」
「帰って下さるかしら?こんな私をあざ笑いに来るなんて、皇后ともあろうあなたにしては趣味が悪いわね」
「そう邪見にしないで頂戴。こんな状態になってもなおここに留まるあなたに敬意を表してるのだから。けど……さすがにこの後宮では肩身が狭くなってしまった模様ね。あの分不をわきまえない楊莉春よりもその地位を落とすなんて。私だったら自害してしまうところよ」
偉家という名前がある間はここまで露骨に嫌味を言ってこなかった鄭妃が、ここぞとばかりに蓮華を攻撃している。この腹の据わった女の本性を最後の最後で見れた蓮華も反撃に出た。
「ここ数年大人しくしていたと聞いたけど、それは病が進行しているって噂は本当なのかしら?」
「さて、どこでそんな噂を耳にしたのかわからないけど、私は至って普通よ」
「そう?そのわりには顔色はあまり良くはないわね」
「毒におかされたこの場所にいるからかしら?早いうちにここを出ますわ。それじゃ」
微笑を浮かべた鄭妃が身をひるがえした時、蓮華がここぞとばかりの罵詈雑言を鄭妃に向かって言う。
「私の寵愛など当に尽きている。それはあなたも一緒よ!あなたはそう長く生きられないわ!病が蝕むのが先か、楊莉春によってその身を地に落とされるか!私は地獄であなたの事を待っていてあげる!」
玉聖宮を出た鄭妃は小さくせき込む。それを見た侍女が鄭妃を支えた。
「鄭妃様!やはり無理は禁物です」
口元に当てていた手ぬぐいには血が少量付着していた。自身の寿命がそう長くない事を鄭妃自身悟っている。病は数年前から始まっていた。それこそ莉春達がこの後宮に入宮するより前から。
「その昔、蓮華に毒を盛られた時から、あの者はいつか地獄へ落としてやると思ったけど、この調子だと勝手に落ちそうね」
皇帝の寵愛を自分だけのものにし、そしてあわよくば自分を皇后の座へ。そういう思惑の元、侍医にも見抜けぬ程の極少量の毒を食事に盛られていたと気が付いたのは、小さな咳が始まりだった。それは年々酷くなる一方で、鄭妃は以後、咳止めのと中和の薬が手放せなくなっていた。
「共に苦楽を共にしてきた者が消えゆくのは残念なものね」
おそらく蓮華は近いうちに自害するだろう。何も後ろ盾がなくなった今、この後宮にいても仕方がない。それを追うように、そう遠くない未来自分も後を追うはずだ。
「全く……これじゃ蓮華の言霊がそのまま実行されそうで嫌だわ」
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