一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十一章

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 普通の者にとっては変わらぬ日常が過ぎる中、玉聖宮ぎょくせいきゅうでは、主の偉蓮華いれんかが親書を手にその美貌にそぐわぬ苦悶の表情を浮かべていた。
「これは本当の事なの?」
 親書を送って来たのは偉家の者。その者は「はい」としか答えなかった。だが蓮華は怒り、親書のとそれが入った筒ごと偉家の者に投げつけた。
「この阿呆!これでは私が謀反人だと思われても仕方がないではないですか!何をしているのです!」
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
 頭を深々と下げる偉家の者を見て蓮華は大きなため息と共に椅子に座る。それを見ていた侍女は蓮華に声をかける。
「蓮華様。今のうちに主上にとりなした方が……」
「無駄よ。まさか私の知らぬ所でこんな事が起こっていたなんて……」
 親書に書かれていたのは御史台の職務怠慢による摘発。偉家の家宅捜査等が記されていた。
 蓮華自身知らなかった。まさか身内が賄賂を得て重要罪人を逃し、しかもその罪人を使って武器などの売買を行っていたとは。
「通りで私の元に献上される品が見た事のない高価なものだと思ったわ」
 その全てを把握していたわけではないが、物の質は極上。そんな似たような物ばかりだったので面倒になって他の夫人に渡しもした。
「待って……もしかしてあの時の商人が言っていた品……」
 ふとある品物についての違和感を思い出した。それは楊莉春ようりしゅんに送った品だ。蓮華自身もその簪がとても美しい細工と蒼玉だったので気に入ったのだが、商人がこう蓮華に言ったのだ。
「その蒼玉は毒にも等しい存在。他国の姫君は嫌いな姫君にそれを差し上げて姫を殺したという逸話もございます」
「随分と面白い話をするのね。まぁいいわ。だったらその逸話を試してみたくなったわ」
 その時は軽い気持ちで商人と談笑し、後日それを莉春に送った。皇帝劉冠耀りゅうかんようの寵愛全てを得ている莉春は蓮華にとって疎ましい存在だった。政略結婚とはいえ、蓮華は冠耀に一目惚れをし、寵愛を得ようと必死だった頃もある。
「もしあの品が本当なら、この事件と合わせてまずい事になるわね」
「蓮華様。今から楊莉春の元に行きますか?」
 そうした方がいい気もしたが、すでに遅しだった。突然太鼓の音と共にしょう大師の「主上のお成り!」と言う声が聞こえた。
「ど、どうしてこんな時に……」
 慌てふためいていた蓮華だが、冠耀と承大師。数人の宦官かんがんと兵士がやって来たので蓮華はその場に膝をつく。
「主上に拝謁致します」
「顔を上げよ。蓮華」
 すると承大師は兵士達に黙ったまま指示した。兵士や宦官達は玉聖宮内を捜索し始める。
「しゅ、主上!一体何の騒ぎなのですか?」
「そなたも知っていよう。偉家の行った事。その偉家がそなたに送った品を調べさせている」
「献上された品はもちろん証拠として出します。けど私は何も知らなかったのです!」
 涙を流し訴える蓮華。もちろん蓮華が何も知らないであろうという事は想定している。だがもしも知っていて献上品を受けていたのなら蓮華も罪人だ。
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