75 / 105
第十章
4
しおりを挟む
中にはもちろん親の七光や縁故などと言う者もいるが、それは星永自身が実力を示せばいい事だ。
「正直李星蘭の息子が国試を受けた事に関しては驚いたがな」
「父自身が主上をどう思っているかは知りません。ですが国試を受けたのは私自身の意思です。ご存知ですか?ここ最近の市井での噂を」
その言葉に、冠燿の手に持っていた杯が止まった。
「うむ。もしかして例の事かもしれぬな。申してみよ」
「とある一族による賄賂や収賄ですね。あの管轄は主上自身あまり目にかけてないようでしたので」
「かけてないわけではない。確実な証拠を得るために置いているだけだ」
事はとある人物からの奏上だった。内容が内容なだけに、表に出せず慎重になっていた。事実ならばこれは大事件であり、城内の根幹を揺るがす事になる。
「ではすでに手を打たれていると?」
「まぁな。その事実どこで聞いたか尋ねてもよいか?」
「王夫人のご実家からの話ですね」
第七夫人である王梁寿の実家は商家だ。聞けば李家に商売をしに来た時、王家の者がそう漏らしたのだそうだ。
「成る程な。実は我がこれを知ったのも梁寿からの奏上だった。初めはにわか信じられなかったが、使いの者に調べさせたら、不備がいくらかあった。問い詰めるべきだったのだろうが、そこで白を切られては完全に退路を断つだろうからな。今は確実に抑え込む為の策を巡らせている」
「ですがそうすれば……いや、国に仇なす者は何者でも許される者ではない。もし私でよければ何かお手伝いを致します」
どうやら若いのに骨のある人物みたいだ。しかも文武を弁えているだけあって、腕もたつ。
「ならば我からの策とは別に、楊莉春とその子炎珠を守ってくれぬか?」
「楊夫人とそのお子を?」
「あぁ。飛び火があるとしたら莉春だ。もしかしたら炎珠にも何かあるかもしれない。だから何か起こる前に主が守ってくれぬか?」
それ程にまで他の嬪姫達と違い第三夫人は特別なのかとも思ったが、確かに耳にする後宮でのいがみ合いで一番的となるのは第三夫人だと理解した。
「承知いたしました」
「うむ。任せた」
「失礼ながら……主上は父の言っていた人物とはかけ離れていますね」
おそらく李星蘭から見た冠燿とは決断力に欠ける、王の器ではないと言いたいのだろう。
「歳もとればいろいろ変わる。そなたの父がいた頃から今日まで、我にもいろいろあったのだ」
きっかけは莉春が初めて懐妊してその後流産した事が一番の転換期だった。自分は皇帝、天子でありながらも守りたい者を守れなかった無力さ。それが悔しくて仕方なかった。
自身の後宮で起きた事で、もう二度同じ事が起きないよう、自分は皇帝であるという自覚を得なくてはいけない。使える力を使おう。そう思ったのだ。
「もし何かあれば追って連絡する。それまで莉春親子を頼んだぞ」
「承知致しました」
「正直李星蘭の息子が国試を受けた事に関しては驚いたがな」
「父自身が主上をどう思っているかは知りません。ですが国試を受けたのは私自身の意思です。ご存知ですか?ここ最近の市井での噂を」
その言葉に、冠燿の手に持っていた杯が止まった。
「うむ。もしかして例の事かもしれぬな。申してみよ」
「とある一族による賄賂や収賄ですね。あの管轄は主上自身あまり目にかけてないようでしたので」
「かけてないわけではない。確実な証拠を得るために置いているだけだ」
事はとある人物からの奏上だった。内容が内容なだけに、表に出せず慎重になっていた。事実ならばこれは大事件であり、城内の根幹を揺るがす事になる。
「ではすでに手を打たれていると?」
「まぁな。その事実どこで聞いたか尋ねてもよいか?」
「王夫人のご実家からの話ですね」
第七夫人である王梁寿の実家は商家だ。聞けば李家に商売をしに来た時、王家の者がそう漏らしたのだそうだ。
「成る程な。実は我がこれを知ったのも梁寿からの奏上だった。初めはにわか信じられなかったが、使いの者に調べさせたら、不備がいくらかあった。問い詰めるべきだったのだろうが、そこで白を切られては完全に退路を断つだろうからな。今は確実に抑え込む為の策を巡らせている」
「ですがそうすれば……いや、国に仇なす者は何者でも許される者ではない。もし私でよければ何かお手伝いを致します」
どうやら若いのに骨のある人物みたいだ。しかも文武を弁えているだけあって、腕もたつ。
「ならば我からの策とは別に、楊莉春とその子炎珠を守ってくれぬか?」
「楊夫人とそのお子を?」
「あぁ。飛び火があるとしたら莉春だ。もしかしたら炎珠にも何かあるかもしれない。だから何か起こる前に主が守ってくれぬか?」
それ程にまで他の嬪姫達と違い第三夫人は特別なのかとも思ったが、確かに耳にする後宮でのいがみ合いで一番的となるのは第三夫人だと理解した。
「承知いたしました」
「うむ。任せた」
「失礼ながら……主上は父の言っていた人物とはかけ離れていますね」
おそらく李星蘭から見た冠燿とは決断力に欠ける、王の器ではないと言いたいのだろう。
「歳もとればいろいろ変わる。そなたの父がいた頃から今日まで、我にもいろいろあったのだ」
きっかけは莉春が初めて懐妊してその後流産した事が一番の転換期だった。自分は皇帝、天子でありながらも守りたい者を守れなかった無力さ。それが悔しくて仕方なかった。
自身の後宮で起きた事で、もう二度同じ事が起きないよう、自分は皇帝であるという自覚を得なくてはいけない。使える力を使おう。そう思ったのだ。
「もし何かあれば追って連絡する。それまで莉春親子を頼んだぞ」
「承知致しました」
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。
十分以上に勝算がある。と思っていたが、
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」
と完膚なきまでに振られた俺。
失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。
彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。
そして、
「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」
と、告白をされ、抱きしめられる。
突然の出来事に困惑する俺。
そんな俺を追撃するように、
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる