一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十章

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 中にはもちろん親の七光や縁故などと言う者もいるが、それは星永自身が実力を示せばいい事だ。
「正直李星蘭の息子が国試を受けた事に関しては驚いたがな」
「父自身が主上をどう思っているかは知りません。ですが国試を受けたのは私自身の意思です。ご存知ですか?ここ最近の市井しせいでの噂を」
 その言葉に、冠燿の手に持っていた杯が止まった。
「うむ。もしかして例の事かもしれぬな。申してみよ」
「とある一族による賄賂や収賄ですね。あの管轄は主上自身あまり目にかけてないようでしたので」
「かけてないわけではない。確実な証拠を得るために置いているだけだ」
 事はとある人物からの奏上だった。内容が内容なだけに、表に出せず慎重になっていた。事実ならばこれは大事件であり、城内の根幹を揺るがす事になる。
「ではすでに手を打たれていると?」
「まぁな。その事実どこで聞いたか尋ねてもよいか?」
「王夫人のご実家からの話ですね」
 第七夫人である王梁寿おうりょうじゅの実家は商家だ。聞けば李家に商売をしに来た時、王家の者がそう漏らしたのだそうだ。
「成る程な。実は我がこれを知ったのも梁寿からの奏上だった。初めはにわか信じられなかったが、使いの者に調べさせたら、不備がいくらかあった。問い詰めるべきだったのだろうが、そこで白を切られては完全に退路を断つだろうからな。今は確実に抑え込む為の策を巡らせている」
「ですがそうすれば……いや、国に仇なす者は何者でも許される者ではない。もし私でよければ何かお手伝いを致します」
 どうやら若いのに骨のある人物みたいだ。しかも文武を弁えているだけあって、腕もたつ。
「ならば我からの策とは別に、楊莉春とその子炎珠を守ってくれぬか?」
「楊夫人とそのお子を?」
「あぁ。飛び火があるとしたら莉春だ。もしかしたら炎珠にも何かあるかもしれない。だから何か起こる前に主が守ってくれぬか?」
 それ程にまで他の嬪姫達と違い第三夫人は特別なのかとも思ったが、確かに耳にする後宮でのいがみ合いで一番的となるのは第三夫人だと理解した。
「承知いたしました」
「うむ。任せた」
「失礼ながら……主上は父の言っていた人物とはかけ離れていますね」
 おそらく李星蘭から見た冠燿とは決断力に欠ける、王の器ではないと言いたいのだろう。
「歳もとればいろいろ変わる。そなたの父がいた頃から今日まで、我にもいろいろあったのだ」
 きっかけは莉春が初めて懐妊してその後流産した事が一番の転換期だった。自分は皇帝、天子でありながらも守りたい者を守れなかった無力さ。それが悔しくて仕方なかった。
 自身の後宮で起きた事で、もう二度同じ事が起きないよう、自分は皇帝であるという自覚を得なくてはいけない。使える力を使おう。そう思ったのだ。
「もし何かあれば追って連絡する。それまで莉春親子を頼んだぞ」
「承知致しました」
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