一輪の白百合をあなたへ

まぁ

文字の大きさ
上 下
70 / 105
第九章

7

しおりを挟む
 まだ盈月としても悲壮の中にいたが、もっと辛い現実がもたらされていた。
「それは本当なのか?」
「はい……残念ですが……」
 仁夢殿にいたのは莉春を診ていた侍医だった。
「楊夫人は今回の流産が原因で、今後懐妊をしても流れてしまう可能性が高いです」
「どうにかならないのか……?」
「こればかりは……薬による流産が原因でなかっただけまだ良かったとしか言えません。もし毒薬でしたら二度と子を成せなくなっていたでしょうから」
 今後先子を成せたとしても流れる可能性がある。その事実を莉春はどう受け止めるか。否。今はまだ伝えられないと思った。
「子が成せないわけではありませんが、もし今後を考えるなら今回以上に慎重になる必要があります。楊夫人自身にもそれは受け入れてもらわなくてはいけません」
「わかった。この件については我から莉春に話そう」
 用を終え侍医はその場を後にした。莉春の元に向かおうと思った。
 事件以後、徳華の死や流産などで疲弊している莉春の元に毎夜向かっていた盈月だが、莉春はその度に涙し、「ごめんなさい」と謝り続けた。
「私が今の莉春にしてやれる事はそう多くない。けど、莉春の傷が少しでも癒えるのならなんなりとする」


 旭庄宮を訪れた盈月は、今宵も莉春の側にいた。
「盈月……ごめんなさい。私はせっかくの命も、友も失ったわ」
「それはもういい。莉春。気持ちはわかるがいつまでもそうしていれば子も浮かばれぬ」
「わかってる……でもまだ気持ちを整理するのには時間がかかるみたい」
 どれほどの時間が経てばこの悲しみは癒えるのか。莉春には全くわからない。もしかしたら一生癒えないのかもしれない。


 だが月日の流れと共に莉春自身、現実を受け入れられるようにはなる。
 徳華の死後、喪が明けてしばらくして皇后が莉春の元にやって来た。そして事についての謝罪をしたが、正直形だけなのだろうと思った。だが相手は皇后。これ以上何も望まずその謝罪を受け入れた。
 呉太妃は莉春を見舞った時にこうつげた。
「人を呪えばその何倍にもなって自分へ返って来る。その時、取り返しのつかない事になっているかもしれない。それでもいいのですか?」
 その言葉があったからか、莉春は踏みとどまる事が出来たのかもしれない。


「莉春様。今日はお天気もいいですし外に出ませんか?」
 そう風華に言われ莉春は庭に出る。正直あの事件以後ここに来るのは苦痛だったが、いつまでもそうしてはいられなかった。
 事件の起こった場所はあまり手入れをされておらず、雑草も茂っている。
「ここもどうにかしないとね」
「莉春様……ここは潰してしまいますか?」
「ううん。手入れしてここに薔薇を植えて頂戴」
「……かしこまりました」
 思い出したくない場所だが、ここには徳華の好きだと言った薔薇を植え、自分への戒めと徳華への弔いとする事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...