一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第九章

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「今日から莉春様をお世話します風華ふうかと申します」
「よろしくね。風華」
 侍医の了承を得て、今日より住まいを旭庄宮に移した莉春は、元々盈月の場所にいた侍女を莉春にと遣わされた。他の舜扶貴や李汝悦もすでに各々の住まいにいるらしい。まだ挨拶はしていないが、莉春は現在絶対安静と侍医にも言われているので、何も出来ない状態だ。
 この一月の間、あまり外部の情報を得ていなかった莉春は、それまで共に生活していた徳華が気になった。
「徳華は元気にしているかしら?ねぇ、徳華をここに呼ぶ事はいいかな?」
「莉春様……侯徳華にお会いになるのはやめておいた方がいいかと……」
「どうして?」
「実は……」
 風華はこの一月にあった侯徳華について話をした。聞けば封号を与えられなかった事に加え、侯鄭妃にお膳立てしてもらってまで事を成したが、子を授かる事が出来なかった。以来酒に溺れているのだという。周りの才人達もそんな徳華を哀れに思い遠巻きにしているとか。
「それで……皇后はどうしているの?」
「皇后様は何も。ただこの一月の間は莉春様を初め三人の夫人が封号を与えられるという事でいろいろと忙しかったようで……」
 忙しいが故に姪の事は後回しになっていた。さすがにこの事態を聞いてしまえば徳華の事が余計気になってしかたがなかった。
「それでも私と徳華は同じように暮らしてきた仲よ。どうにかここに招待してくれないかしら?」
「了解しました」
 渋々と言った形で風華は承諾した。


 徳華との面会が叶ったのはそれから三日後の事だった。だが久々に会った徳華には前のような面影が見当たらなかった。
「莉春!久しぶりね」
「徳華……」
 終始酒の匂いを纏わせ、目の焦点も合っていない。さすがにこれでは莉春の体に障るという事で、一定の距離以上近づく事を禁じられた。
「凄いわね。呉太妃を後ろ盾にとって第三夫人になるなんて。しかもこんな立派な住まいまで頂いて……それに、主上との子まで成したのよね。とても羨ましいわ」
「徳華。とりあえずいろいろ用意したから食べて頂戴」
 卓に並べられた料理の数々。ほとんどは徳華の好物だ。だが徳華はそれらに手を出さず「お酒を頂戴」と言ったので、莉春はそんな徳華を諫める。
「徳華飲みすぎよ。お酒控えた方がいいわ」
「いいのよ。どうせ主上が私を召す事もなければ、封号を与える事もこの先ないわ。知ってる?朝廷で主上は侯家にこう言ったのよ。これ以上の力を持つことは許さないって。つまり私にはこの先はないってわけ。せっかく後宮に入ったのに、これじゃあんまりよね」
 徳華の気持ちからしてみれば言わんとする事はわかる気もする。しかも朝廷の場でそう言ったのであればおそらく徳華がこの先夫人の座に就く事はない。
「ねぇ莉春。この屋敷を見てみたいわ」
「えぇわかったわ」
 立ち上がった徳華に続き、莉春も風華の手を借りて立ち上がる。その時耳打ちで「気を付けて下さい」と一言言った。
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