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第九章
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「楊才人のお成り」
そう言われ仁夢殿に入殿した莉春は盈月の前で膝を折る。
「主上に拝謁致します」
「顔を上げよ」
今宵もこの場に呼ばれたのは莉春。もはや皇后を叔母に持つ侯徳華の事例は別として、この後宮で一番の寵愛を得ているのは莉春だけだった。
「莉春。そなたに二三程質問がある」
「それは呉聖葉太妃の事ですか?」
「なんだ。知っていたのか?」
「はい。私が呉太妃にお願いいたしましたので」
やはり莉春は地位を望んだのだ。その事実に少なからず盈月としては衝撃を得た。
「何故私に何も言わず……」
「言えばあなたは私に封号を与えたでしょう。でもそれではあなたの分が悪いです。周りとの軋轢を生んでしまいます。私はそれを望みません」
「ではどうして地位を望む」
「知っての通り。私には後ろ盾がありません。この先、この後宮で生きていくためには後ろ盾も地位も必要だったのです。決してあなたからの寵愛を一人のものにする為ではありません。私自身とその未来を守る為に必要不可欠なのです。もしそれを快く思わないのであれば、どうぞ私に罰をお与え下さい」
そう言って再び膝を折ろうとしていた莉春の腕を掴み、強く引き寄せ抱きしめた。
「罰など与えぬ。だが一言あってもよかったのではないかと思った。しかし今の事を聞いて正直安心した」
後宮内に更なる混乱を招くのかとも疑問視したが、そうではなかった。莉春自身が考えて出した答え。ならば呉太妃の声もあるので、封号は与えやすくはなった。しかし。
「封号を与えれば、莉春は後宮でそれなりの地位を得る。時としてそれは争いの火種にもなれば、諫める力ともなる。生き残る為にこれまで以上に神経を尖らせなくてはいけない」
「承知の上です。全てはあなたと私の為でもあります」
「莉春……」
「盈月……」
腕を引かれ、寝台へと向かおうとした時だった。莉春が口に手を添えその場に座り込んだ。
「莉春!」
「だ、大丈夫です!」
「侍医!侍医!」
慌てる盈月の声を聞き、侍医が部屋へと入って来る。えづく莉春は吐き戻し、その場に倒れこんだ。今夜の仁夢殿は波乱の幕開けになるかと思われた。
「侍医……莉春は?」
寝台に寝かせた莉春は穏やかな寝息を立てている。その莉春の腕から脈を図っていた侍医は、心配する盈月に微笑を浮かべた。
「安心して下さい。主上。楊才人には何も問題はありませんよ。それよりも喜ばしい事があります。楊才人は懐妊しております」
侍医の言葉に盈月は言葉を失った。皇后侯鄭妃や偉蓮華の時ももちろん喜ばしかったが、莉春の懐妊にはとても喜んだ。
「本当か?本当なのか?」
「はい。ですがまだ妊娠初期の段階でしょう。しばらくは安静する事をおすすめします」
喜ぶ盈月は眠る莉春の手を握った。
子を成したとなれば封号をより与えやすくなる。しばらくは仁夢殿で様子を見る事にし、落ち着いてから封号を与え、莉春の住まいを用意させよう。そう思っていた。
そう言われ仁夢殿に入殿した莉春は盈月の前で膝を折る。
「主上に拝謁致します」
「顔を上げよ」
今宵もこの場に呼ばれたのは莉春。もはや皇后を叔母に持つ侯徳華の事例は別として、この後宮で一番の寵愛を得ているのは莉春だけだった。
「莉春。そなたに二三程質問がある」
「それは呉聖葉太妃の事ですか?」
「なんだ。知っていたのか?」
「はい。私が呉太妃にお願いいたしましたので」
やはり莉春は地位を望んだのだ。その事実に少なからず盈月としては衝撃を得た。
「何故私に何も言わず……」
「言えばあなたは私に封号を与えたでしょう。でもそれではあなたの分が悪いです。周りとの軋轢を生んでしまいます。私はそれを望みません」
「ではどうして地位を望む」
「知っての通り。私には後ろ盾がありません。この先、この後宮で生きていくためには後ろ盾も地位も必要だったのです。決してあなたからの寵愛を一人のものにする為ではありません。私自身とその未来を守る為に必要不可欠なのです。もしそれを快く思わないのであれば、どうぞ私に罰をお与え下さい」
そう言って再び膝を折ろうとしていた莉春の腕を掴み、強く引き寄せ抱きしめた。
「罰など与えぬ。だが一言あってもよかったのではないかと思った。しかし今の事を聞いて正直安心した」
後宮内に更なる混乱を招くのかとも疑問視したが、そうではなかった。莉春自身が考えて出した答え。ならば呉太妃の声もあるので、封号は与えやすくはなった。しかし。
「封号を与えれば、莉春は後宮でそれなりの地位を得る。時としてそれは争いの火種にもなれば、諫める力ともなる。生き残る為にこれまで以上に神経を尖らせなくてはいけない」
「承知の上です。全てはあなたと私の為でもあります」
「莉春……」
「盈月……」
腕を引かれ、寝台へと向かおうとした時だった。莉春が口に手を添えその場に座り込んだ。
「莉春!」
「だ、大丈夫です!」
「侍医!侍医!」
慌てる盈月の声を聞き、侍医が部屋へと入って来る。えづく莉春は吐き戻し、その場に倒れこんだ。今夜の仁夢殿は波乱の幕開けになるかと思われた。
「侍医……莉春は?」
寝台に寝かせた莉春は穏やかな寝息を立てている。その莉春の腕から脈を図っていた侍医は、心配する盈月に微笑を浮かべた。
「安心して下さい。主上。楊才人には何も問題はありませんよ。それよりも喜ばしい事があります。楊才人は懐妊しております」
侍医の言葉に盈月は言葉を失った。皇后侯鄭妃や偉蓮華の時ももちろん喜ばしかったが、莉春の懐妊にはとても喜んだ。
「本当か?本当なのか?」
「はい。ですがまだ妊娠初期の段階でしょう。しばらくは安静する事をおすすめします」
喜ぶ盈月は眠る莉春の手を握った。
子を成したとなれば封号をより与えやすくなる。しばらくは仁夢殿で様子を見る事にし、落ち着いてから封号を与え、莉春の住まいを用意させよう。そう思っていた。
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