一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第七章

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「い、いけません!」
 ふと何処からか忙しない声が聞こえて来た。
「何かしら?」
 声の方を見ると池の近くで小さな子供と女官、果ては宦官達もいた。
「あれは蒼晶そうしょう……」
「蒼晶ってたしか鄭妃様の娘の公主」
 皇后鄭妃には一男二女の子供がおり、今池の近くで騒がせているのはまだ五つの末娘、蒼晶だ。
「何をしてるのかしら?」
 二人は騒ぎの場所へ向かおうとした。


「いけません公主様!」
「どうして?この池には昔の姫が大量の宝玉を捨てたって話じゃないの?」
「それは伝説でしかありません。実際にはあるかどうか……それに池は深いので危険です!」
「どうかしたの?」
「候才人!楊才人!」
 二人の登場に女官達は頭を下げるが、蒼晶は徳華を見るなり走って近寄る。
「何をしているの?蒼晶」
「徳華!聞いて!この池にある宝玉を取りに来たのに、みんな止めようとするの!」
 どうやら蒼晶の我儘で女官達はここまで駆り出されたようだ。この場を諌めて欲しいと女官達は目で訴えて来ている。
「蒼晶。この池に例え宝玉があったとしても、池は深く危険なの。もしここの誰かが蒼晶の言う通り池に入って命を落としたらどうする?哀しむのは父上よ。それでもいいの?」
 徳華に言われ、父上、冠燿の名を出されては蒼晶とてこれ以上何かをしようとはしないみたいだ。
「どうして宝玉が欲しかったの?」
「母上にあげたくて……」
「鄭叔母様だったら、蒼晶からの贈り物ならなんだって喜んでくれるわ。そうだ。この先に菊が咲いてたわ。それを摘んで行きなさい」
「うん!」
 納得してくれたそうで、蒼晶は女官の手を引き菊が咲いている場所へと向かった。残っていた女官の一人が二人に頭を下げた。
「候才人。楊才人。ありがとうございました」
 そう言ってその場を後にした女官。残った二人は互いに顔を見合った。
「徳華は流石ね」
「あれくらいどうってことないわ。女児っていうのもあって、少々甘やかされているとは聞いていたから」


 眠れない夜。弦丘城内を散策するのが癖になっていた莉春は、今宵もまた城内散策をしていた。
 弦丘城の中央にあり、朝廷を行う場所で、全てを見渡せるこの香露殿こうろでんから見る景色が好きだった。
「ここから東に皇太子の住む東宮。仁夢殿や盧眞房、その他役所。そして眼前に見える国の全景」
 この全ては皇帝である盈月のものであり、盈月が治める場所。
 この壮大な国を眺めながら莉春はため息を漏らした。今宵もまた別の誰かが仁夢殿に召される。
「一才人が望むなどおこがましいのはわかってる。それに私は盈月の助けになるならとここに来た。でもどうしてかしら?いつまで待てばいいのかな?」
 日に募る焦りにも似た焦燥感。きっといつか召された才人達には子も出来るだろう。だが召されることなくここにいるだけの自分は果たして。
「私がここに来たのは間違っていたの?」

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