49 / 105
第七章
2
しおりを挟む
「待って徳華!」
葉旬宮を抜け出した徳華を追った莉春。徳華は後宮にある池の辺りで足を止めた。
「どうして主上は私を選んで下さらなかったの?私の舞はまだ主上を満足させられなかったの?」
自他共に徳華が選ばれると思っていただけに、本人からしたらとても耐え難い屈辱なのだろう。
「徳華の舞は凄かったよ。ただ……ここはそういう場所。選ぶも選ばないも主上次第」
「そんな事わかっているわ。私は主上に気に入られたくて、伯父様達に推挙してもらってここに来たのに」
伯父と言うのは盈月の家臣でもある候家の老臣の事であろう。そうまでして徳華は後宮に入りたかったと共に、この国で劉家を除き候家の力は強いのだと思い知らされる。
「きっと次があるわ……だから落ち込まないで!」
「次なんてないわよ!今宵選ばれなかった私が今後先選ばれるわけがない」
全ては神のみぞ知るなのか。こうして選ばれた者は歓喜し、選ばれなかった者は枕を濡らす。
徳華もそうだが、莉春自身も何度涙で枕を濡らす夜を送るのかはわからない。
「楊莉春に関してはまず選ばないと踏んでいたけど、まさか候家縁の者まで選ばないとはね……」
世も更けた頃、鄭妃は侍女に向かってそう言った。
「鄭妃様。これは候家への牽制と捉えてもよろしいのでしょうか?」
「さぁ、私の知るところではないわ。けど私自身ここに嫁いだのも家の繁栄の為。現にこの城に候家の手が入らない場所はないわ。きっと朝義は荒れるわね」
杯に入れられた酒を煽るように飲む鄭妃。鄭妃自身が皇帝に召される事はなくなった。誘い倒してようやく会える程度で、一年のうち会わない方が多い。
「それでも私も女なのよね。主上に気に入られたいと思うのは」
鄭妃の長男である朔王。本名英将は、弦丘城内にある東宮で暮らす。歳の頃は十でこの国を担う皇太子だ。
皇后にはそれほど会う事はないが、皇太子となれば別で、冠燿はたまに朔王に剣の手解きをしたり、仕事の一部を手伝わせている。
「まぁ、朔が主上と繋がっているからいいわ。それに私自身も長生きしなくてはね。死ねば偉蓮華が自分の息子を皇太子にしようと朔を危険な目に合わせるでしょうし」
何としてでもこの後宮の主として、皇后としての品位を保たねばならない。この先に男児を誰かが産もうとも、それだけは譲れない。
「叩いても何も出ないでしょうが、とりあえず王青玄について調べてみて」
「了解しました」
そう言って侍女は鄭妃の元を離れた。
「最後に主上に召していただいたのはいつだったかしら?」
遠い過去を振り返りながら、鄭妃は酒を呑み続けた。
葉旬宮を抜け出した徳華を追った莉春。徳華は後宮にある池の辺りで足を止めた。
「どうして主上は私を選んで下さらなかったの?私の舞はまだ主上を満足させられなかったの?」
自他共に徳華が選ばれると思っていただけに、本人からしたらとても耐え難い屈辱なのだろう。
「徳華の舞は凄かったよ。ただ……ここはそういう場所。選ぶも選ばないも主上次第」
「そんな事わかっているわ。私は主上に気に入られたくて、伯父様達に推挙してもらってここに来たのに」
伯父と言うのは盈月の家臣でもある候家の老臣の事であろう。そうまでして徳華は後宮に入りたかったと共に、この国で劉家を除き候家の力は強いのだと思い知らされる。
「きっと次があるわ……だから落ち込まないで!」
「次なんてないわよ!今宵選ばれなかった私が今後先選ばれるわけがない」
全ては神のみぞ知るなのか。こうして選ばれた者は歓喜し、選ばれなかった者は枕を濡らす。
徳華もそうだが、莉春自身も何度涙で枕を濡らす夜を送るのかはわからない。
「楊莉春に関してはまず選ばないと踏んでいたけど、まさか候家縁の者まで選ばないとはね……」
世も更けた頃、鄭妃は侍女に向かってそう言った。
「鄭妃様。これは候家への牽制と捉えてもよろしいのでしょうか?」
「さぁ、私の知るところではないわ。けど私自身ここに嫁いだのも家の繁栄の為。現にこの城に候家の手が入らない場所はないわ。きっと朝義は荒れるわね」
杯に入れられた酒を煽るように飲む鄭妃。鄭妃自身が皇帝に召される事はなくなった。誘い倒してようやく会える程度で、一年のうち会わない方が多い。
「それでも私も女なのよね。主上に気に入られたいと思うのは」
鄭妃の長男である朔王。本名英将は、弦丘城内にある東宮で暮らす。歳の頃は十でこの国を担う皇太子だ。
皇后にはそれほど会う事はないが、皇太子となれば別で、冠燿はたまに朔王に剣の手解きをしたり、仕事の一部を手伝わせている。
「まぁ、朔が主上と繋がっているからいいわ。それに私自身も長生きしなくてはね。死ねば偉蓮華が自分の息子を皇太子にしようと朔を危険な目に合わせるでしょうし」
何としてでもこの後宮の主として、皇后としての品位を保たねばならない。この先に男児を誰かが産もうとも、それだけは譲れない。
「叩いても何も出ないでしょうが、とりあえず王青玄について調べてみて」
「了解しました」
そう言って侍女は鄭妃の元を離れた。
「最後に主上に召していただいたのはいつだったかしら?」
遠い過去を振り返りながら、鄭妃は酒を呑み続けた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる