一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第七章

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「待って徳華!」
 葉旬宮を抜け出した徳華を追った莉春。徳華は後宮にある池の辺りで足を止めた。
「どうして主上は私を選んで下さらなかったの?私の舞はまだ主上を満足させられなかったの?」
 自他共に徳華が選ばれると思っていただけに、本人からしたらとても耐え難い屈辱なのだろう。
「徳華の舞は凄かったよ。ただ……ここはそういう場所。選ぶも選ばないも主上次第」
「そんな事わかっているわ。私は主上に気に入られたくて、伯父様達に推挙してもらってここに来たのに」
 伯父と言うのは盈月の家臣でもある候家の老臣の事であろう。そうまでして徳華は後宮に入りたかったと共に、この国で劉家を除き候家の力は強いのだと思い知らされる。
「きっと次があるわ……だから落ち込まないで!」
「次なんてないわよ!今宵選ばれなかった私が今後先選ばれるわけがない」
 全ては神のみぞ知るなのか。こうして選ばれた者は歓喜し、選ばれなかった者は枕を濡らす。
 徳華もそうだが、莉春自身も何度涙で枕を濡らす夜を送るのかはわからない。


「楊莉春に関してはまず選ばないと踏んでいたけど、まさか候家縁の者まで選ばないとはね……」
 世も更けた頃、鄭妃は侍女に向かってそう言った。
「鄭妃様。これは候家への牽制と捉えてもよろしいのでしょうか?」
「さぁ、私の知るところではないわ。けど私自身ここに嫁いだのも家の繁栄の為。現にこの城に候家の手が入らない場所はないわ。きっと朝義は荒れるわね」
 杯に入れられた酒を煽るように飲む鄭妃。鄭妃自身が皇帝に召される事はなくなった。誘い倒してようやく会える程度で、一年のうち会わない方が多い。
「それでも私も女なのよね。主上に気に入られたいと思うのは」
 鄭妃の長男であるさく王。本名英将えいしょうは、弦丘城げんきゅうじょう内にある東宮とうぐうで暮らす。歳の頃は十でこの国を担う皇太子だ。
 皇后にはそれほど会う事はないが、皇太子となれば別で、冠燿はたまに朔王に剣の手解きをしたり、仕事の一部を手伝わせている。
「まぁ、朔が主上と繋がっているからいいわ。それに私自身も長生きしなくてはね。死ねば偉蓮華が自分の息子を皇太子にしようと朔を危険な目に合わせるでしょうし」
 何としてでもこの後宮の主として、皇后としての品位を保たねばならない。この先に男児を誰かが産もうとも、それだけは譲れない。
「叩いても何も出ないでしょうが、とりあえず王青玄について調べてみて」
「了解しました」
 そう言って侍女は鄭妃の元を離れた。
「最後に主上に召していただいたのはいつだったかしら?」
 遠い過去を振り返りながら、鄭妃は酒を呑み続けた。
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