一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第七章

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 夏も終わり、秋の晴天。多くの実りに感謝をする奉納祭が執り行われる。
 まずは皇帝劉冠燿りゅうかんようと皇后候鄭妃こうていひが習わしに則り無事今年も作物を奉納する事が出来たと石碑に祈りを捧げ、酒を石碑にかける。
 それが終れば今年入宮した才人達による演舞。官吏達もこの日ばかりは酒を交わしながら才人達の華麗な舞に酔いしれる。
 上段中央が冠燿。左隣には鄭妃。右手一段下に偉蓮華いれんかがいる。
 舞の中心人物は鄭妃の姪、候徳華こうとくかである。
「主上。徳華の舞はいかがですか?」
「悪くはない」
「えぇ。あの子は昔から愁恋舞しゅうれんぶが得意でして。まるで題名のように切ない恋をしているかのよう」
 自分の姪を是非にと言っている鄭妃に蓮華はちらりと一瞥し、扇子で口を覆う。
「全く……姪を使って寵愛をも得ようと。浅ましい」
 その声が鄭妃に聞こえる事はないが、皇后という立場であって冠燿の隣に並べる。それが憎くもどうしようもない事なのだと言い聞かす。
 だが嬪姫二人が腹の中で何を考えていようと、冠燿の目には楊莉春ようりしゅんしか写っていない。
 それなりに踊りはしているが、徳華に比べると辿々しい。だが冠燿にはそれも愛らしいものだと思っていた。


 夜も更け、今宵も皇帝に呼ばれたいた思う後宮の女達は、お呼びがかかるかそわそわしている。もちろん葉旬宮ようしゅんきゅうにいる才人達もそうだ。今日は自分達を見せる絶好の場。
 中心人物として踊っていた徳華なのか、それとも入宮前から皇帝に気に入られていた莉春なのか、それともまぐれでも自分達なのか。皆心待ちにしている。
「莉春は随分と落ち着いてるのね」
 そう声をかけてきたのは徳華。
「うん。私は呼ばれる事はないから」
「どうして?貴女が一番主上の寵愛に近いと言われてるのに?」
「それこそ呼ばれたら角が立つじゃない。これ以上注目されるのは嫌よ。それに今日の主役は徳華じゃない。呼ばれるのは徳華だわ」
 きっと本人も自分が呼ばれると思っているのだろう。少し自信げな表情を見て莉春は微笑を浮かべた。
 すると太鼓の音が葉旬宮に響く。
「あっ、来たわよ」
 皆庭に出て膝をつく。入ってきた宦官かんがんが才人達を一瞥した。
「今宵仁夢殿じんむでんに召される映えある才人は……」
 皆名を呼ばれるのを楽しみに固唾を飲んだ。
王青玄おうせいげん。王青玄」
 名を呼ばれた王青玄は後ろの方にいた才人で、自分が呼ばれると思っていなかったのか、歓喜のあまり涙を流していた。だが周囲は困惑する。
「さぁ、主上がお待ちです」
 宦官に腕を引かれ葉旬宮を出て行った王青玄。残った才人達が騒めく。
「てっきり徳華か莉春かと……」
「しっ!」
 皆の予想とは違い、王青玄は家柄もそう高くなく、目立つ何かがある人物ではない。
 自分は選ばない。それを知っていた莉春も驚いた。徳華を選ばなかった事で候家は何か言うだろう。そして選ばれなかった徳華は呆然としていた。
「徳華……」
 莉春の声に目を覚ました徳華は、涙を浮かべながらその場から立ち去った。
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