一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第六章

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 一方、偉蓮華の住まう玉聖宮ぎょくせいきゅうでは、蓮華が愛猫を愛でながら数人の才人を玉聖宮に招待していた。
「偉蓮華様に拝謁致します」
 才人達は皆、深々と頭を下げる。その様子を一段高い椅子から見ていた蓮華は、「顔を上げなさい」と言った。
「今日は日頃の労をねぎらう為、そして貴女達が主上から施しを頂けるように開いた茶会です。楽にしなさい」
 皇帝の愛を得るためなどと言いながらも、実際は裏のあるこの茶会。招かれた才人達はその事に気が付いているが、長い物には巻かれよという言い伝えもあるように、何もないかのようにして従う。その証拠にここには徳華も莉春もいない。どう見ても何かあるとわかるが、誰もその事について触れないでいる。
「皆、侯徳華と楊莉春がいない事に疑問を持っているそうね」
 触れないでいた事を蓮華自ら口を開いた。
「あの二人にもお声かけしたのだけど、二人は鄭妃様の茶会に呼ばれているらしくてね。さすがに皇后の誘いを無下にする事は出来ないわ。だからそちらに行く様に使いの者を出したの」
 その言葉が嘘である事は才人達にもわかる。だが疑問を口にしてはいけない。自分達の地位が危ないからだ。


 照景宮では、鄭妃に招かれやって来た莉春と徳華がいた。
「叔母様。ご機嫌麗しゅう」
「鄭妃様に拝謁致します」
 二人は鄭妃に向かい頭を下げた。ここに呼ばれるのが姪の徳華一人ならば理由はわかる。だがここに莉春も呼ばれている事が全く理解出来なかった。流石に皇后の招待を無下には出来ない。何か裏があるのかもしれない。莉春は注意深く動向を見守る事した。
「二人とも顔を上げなさい。そして楽になさったらいいわ」
 微笑を浮かべる鄭妃の心の内は全く読めない。優雅に扇子を仰ぐ鄭妃に莉春は声を出す。
「この度は鄭妃皇后自らのお招きありがとうございます。ですが私も同席しても大丈夫なのですか?」
「貴女は徳華と仲がよろしいと聞いたわ。徳華の友ならば呼んで当たり前ですわ。それに、貴女は主上のお気に入りですからね。これから寵愛を一心に担う者。ならば皇后である私も仲良くしておきたいもの」
 要所要所に棘がある言い方をする鄭妃に、これはついでに呼んだのではないと莉春は思った。だが相手は皇后だ。どうする事もしないし、出来ない。するとするならば荒波を立てず静かにこの後宮で過ごす事だ。
「叔母様。あまり莉春をいじめないで」
「あら、私は莉春をいじめていたのかしら?」
「そうではないですけど、たしかに私達の中で莉春が主上に最も近いのは事実。ですが私だってこの後宮にいる一人です。主上からの愛が欲しいですわ。そのために私だって頑張っているんです」
 徳華はあまり普段おっとりしている割に、物事をはっきりと言う。
 今の所、後宮内や朝廷では莉春の名と共に、皇帝の側室に近いと言われ注目されているが、徳華自身その声に負けじと努力を重ねているのだ。それは莉春もわかっている。
「恐れながら……徳華は気立てもよく舞も素晴らしいです。それに鄭妃様を叔母に持つ徳華は、主上の最初に呼ばれる才人であると私自身も思っています」
「あら、色々言われている中で、結構控えめなのね」
「私はただここで主上を支えたいと思っているだけ。寵愛を一心に受けようなどと考えてはいません」
 それは事実だ。それにもし自分が先に選ばれるような事があっては角が立つ。後は盈月が自分を選ばない事を願うしかないのだ。
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