一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第六章

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 ここは葉旬宮ようしゅんきゅう。才人達が寝起きする場所だ。皇帝に気に入られ、住まいを与えられるまで集団で寝起きする場所でもある。
 わかっていたが、二人の嬪姫に目をつけられている時点で他の才人達は莉春に近づこうとはしない。
(別に気にしないけど……)
 これからは孤独だ。自分自身に出来る事をここでする。そうあの夜・・・誓ったのだ。


 今から一年ほど前、莉春は紀清に選択を迫られていた。紫水殿を、そして盈月えいげつの元を去るか、後宮入りをするか。
 莉春はせっかく掴んだものを手放さなくてはいけない。なんとなしになりたいと思った女官は、今ではとても楽しいものだった。
 自分という存在が盈月を駄目にするのだと言われ、莉春はどうすべきか悩んだ。
「ごめんなさい……すぐには答えが出ない」
 そう莉春は紀清に告げた。紀清もこれ以上何も言わなかった。だが。
「莉春ちゃんの気持ちもわかるよ。でもこればかりは待てないんだ。三日。その間に答えを出して」
 それだけを言い残し去った。
 紀清がいなくなり、莉春も自分の持ち場へと戻って仕事をしたが、中々仕事に打ち込めなかった。すると女官の長でもある景美けいびに呼び出された。
「あの、話って何ですか?」
 景美の部屋へとやって来た莉春だが、景美の他に老人が一人椅子に座っていた。
「こちらは承大師。承丞黄じょうき様です」
「初めまして。承と申します」
 立ち上がった丞黄は莉春に一礼をした。莉春も一礼をして名を述べる。
「あの、どうして大師がこちらへ?」
 何かの神事があるにしても、下っ端女官の莉春には縁ない事だ。それをわざわざ城からやって来たとあっては何かあるのはわかるが。
「ふむ。利発そうな娘とお見受けするが、家は農家であったとな?」
「は、はい。国の近い場所にある村に実家はあります」
「では嬪姫として召し上げるには色々と無理がありますな……」
「嬪姫?ちょっと待って下さい!どういう事ですか?」
 なんだかこの手の話を先ほどもしたような気がしたが、まさか紀清の差し金かとも思ってしまった。
劉冠燿りゅうかんよう様は知っておりますな?」
「も、もちろん……この国の皇帝ですよね」
「はい。そして貴女は少なからず冠燿様と繋がりがあったのですな?」
「知ってるんですか?」
「細かくは知りません。ですが主上の側にいます故、またに貴女様の事を言うもので、どのような娘か気になりまして」
 一体何を話していたのかはわからないが、それだけの事でここへ来るわけではないし、嬪姫がどうのこうのと言っていた。
「あの、盈げ……主上に何かあったのですか?」
「表向きは何もありません。まだ。ですがこの先の事は私にはわかりません」
「あの、つまりは何か不穏な動きが弦丘城げんきゅうじょうで起ころうとしているのですか?」
「そうですね。主上の御心が迷われております。側に長年いるからわかるのです。それが貴女様の事ではないかと思いここへやって来た次第です」
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