一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第五章

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「ここに連れて来てくれてありがとう。なんとなく盈月がどんな人物で、この国にとって大切な人なのかわかったわ」
「そう?まだまだ連れて行きたい場所はあるんだけどなぁ……」
 さすがにこれ以上はまずいだろう。そう思って莉春は紀清の誘いを辞退する事にした。来た道を戻って仕事をこなそう。そう思った時だった。
「あっ、丞黄じょうきだ」
 蘆眞房から出てきたのは一人の老人で、どうやらその人物を紀清は知っているようだ。
「ちょっと会って来るよ!」
「えっ?ちょっと!」
 そう言うと風の如くその場を去って行った紀清。遠くからしか見てわからないが、丞黄と呼ばれた老人は、紀清の登場に驚き、そして頭を下げる。紀清はすぐに頭を上げさせたが、丞黄が「こちらへ」的な事を言ったように見えたので、紀清はその後ろに付いていく。
「ちょ、ちょっと……どうしろって言うのよ……」
 困った事になった。仕方なく莉春は紀清に帰りを待つことにしたが、紀清は一刻待っても帰ってこない。どうしようもないと悟り、一人そのまま来た道を戻る事にした。


 再び後宮の敷地内を歩いていた莉春だが、正直迷子状態だ。なにせこの後宮だけでも複数の居住まいがあるため、とても広大なのだ。
「どこからどうやって来たのか、景色をちゃんと見てればよかったわ」
 下を向いて歩いていた為、目安となるものがさっぱりわからない。あまり大通りでない道を選んでは歩いていたが、結局どうすればいいのかわからず途方に暮れていると、目の前に池が見えたので、そこで休憩をとる事にした。
「おとなしくおじさんが帰って来るの待っていればよかったわ」
 目立たないよう目立たないようにしていたが、時折すれ違う嬪妃達の楽しそうな声。そして煌びやかな衣装を遠目で見ながら圧倒された。
「みんな盈月に選ばれたくて綺麗にしてるんだよね」
 皆、頭の先から爪の先まで手入れが行き届いている。自分は今、侍女の恰好をしているものの、背も低くまだまだ子供の顔つき。色気よりは食い気と、誰もが見てわかる子供だ。
「あっ、偉蓮華様」
 才人の誰かがそう言った。すると彼女たちの前方から始めに見た鄭姫とは違った美しさを放つ美女がやって来る。薄桃色の衣装を纏い、髪には金の簪。だが鄭姫と違うのはどこか高圧そうな雰囲気が見て取れる。
「蓮華様ご機嫌麗しゅう」
 皆頭を下げるが、蓮華は一瞥いちべつしただけでその場を去って行った。姿が見えなくなった後、才人達は安堵そうな表情を浮かべた。
「怖かったわ……」
「本当ね。もう行きましょ」
 そう言ってその場を去って行った嬪妃達を見て、どうやら皇后鄭姫とは違った意味で偉蓮華という人物は才人達にとって関わりたくない相手なのだと悟った。
「ここは桃源郷のようで煉獄のような場所なのね。関わるもんじゃないわね。早く帰ろう」
 いずれは戻れると信じ、また後宮内を歩こうとした時だった。
「莉春?」
 聞き覚えのある声の主を見た時、莉春はもちろん、盈月も目を見開き驚いていた。
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