一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第五章

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 前皇帝劉紀清りゅうきせいに手を引かれ、弦丘城げんきゅうじょうにやって来た莉春りしゅん
 眼前に広がるのは広大な庭園。地面は舗装され、木々や花が手入れされた場所。要所要所には赤の漆が塗られた柱が特徴のも東屋がある。
「と、桃源郷?」
 つい言葉を発した莉春に紀清は笑った。
「莉春ちゃんにはそう見えた?ここは後宮の端だね」
「こ、後宮?ここが?」
「そう。あまり人が出歩かない場所なんだけど、日当たりは良いからよくさぼりたい人達が来てるね」
 確かにここは時期によっては気持ちよさそうだ。しかし今の時期は夏。日射しは強いので何時間もいることは出来ないだろう。
「この時刻じかんだとちょうど朝義も終わってるんじゃないかな?香露殿こうろでんに行ってみる?」
「えっ?香露殿って?」
「政務を行ってる場所」
「だ、駄目よそれは!」
「どうして?」
「だっていろんな人がいるのでしょ?それにこの格好だとさすがに……」
「うーん、だったら!」
 いきなり腕を掴まれ、どこかへと連れて行こうとする紀清の行動に莉春は驚くしかない。
「さ、これに着替えて」
 連れてかれた場所は倉庫か何かなのか、莉春は紀清から服を手渡される。上質な絹は薄い緑で、黄色い刺繍が施されている。
「これは?」
「それは侍女の服。おじさんもこっちに着替えるから」
 もうどにうでもなれという気持ちになった莉春は、衝立一つ向こうで渡された服に着替える。
「うんうん。なんか似合うね。女官なんてやめて侍女になる?」
「馬鹿言わないでよ。こうみえて女官のお仕事は楽しいんだから」
「成る程ね」
 紀清が着替えたのは宦官かんがんの服で、全身黒づくめだ。だが一部の人間には顔が知られているのに大丈夫なのだろうかと思った。
「基本的に目上の者には顔を上げないから大丈夫だろうね」
「実際の貴方はかなりの目上じゃない」
「そこはまぁ潜り込むのに必要と思ってやってるから」


 こうして紀清に連れられ、莉春は後宮内を歩く事になる。
 二人が来た場所から各妃嬪ひひん達や盈月えいげつの住まい、政務を行ってる場所に近づくにつれ、人が往来するようになった。
 なるべく顔を上げずに歩いていると、案外気づかれないのか、すれ違っても何も言われない。心配しながら歩いていると、紀清が莉春に耳打ちする。
「止まって」
「えっ?」
  隠れるよう言われたので、木陰に隠れると、前方から華やかな服や装飾品を施した女性が輿に乗ってやって来るのが見えた。側には侍女や宦官達もいる。
「あれが冠燿かんようの妻で皇后の候鄭姫こうていひだよ」
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