一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第四章

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「あいつは幸せ者だよ。こうして自分を理解してくれる人がいる。それだけでも十分だ」
「どうしてそんな事言えるの?」
「王は王たる資質を備えておかねばならない。他に弱みを握られればそこから切り崩される。王である以上当たり前の事だ。だからあの中にいて絶対己の弱さはさらけ出してはいけない。それを莉春ちゃんの前でさらけ出してるんだ。でも莉春ちゃんはそれを利用しようとはしない。そうだろ?」
「でももし私がそれを利用しようとしたら?」
「しないよ。目を見ればわかるさ。あいつもまたそうだろう」
 どこから用意したのか、紀清はその場に座り込むと酒を取り出し一人呑む。
「莉春ちゃんも呑むかい?」
「いらないわ。それよりもちゃんと質問に答えてよ。どうして盈月だったの?」
 一杯の酒を呑み干すと、杯を床に置いた紀清は莉春を見た。その目を見た莉春は一歩後ずさった。この目は先ほどまでの目ではない。覇気のある目。王の目だ。
「それはおじさん達だけの内情だよ。ただのお嬢さんで、あいつのお気に入りだったとしても教えられない。だって莉春ちゃんは城の人間ではないから」
 その言葉に莉春は何も言い返せなかった。否、言わせないように圧がかかったのだと思った。たしかに一市民である莉春に皇族の内示など知る権利はない。
「まぁ、あいつが莉春ちゃんを後宮に召し上げてお嫁さんにしちゃうっていうなら言わなくもないけどね」
「後宮に……」
「けどそれは無理だ。一応内情は知ってるよ。十年以上あってもまだ嬪妃はたったの二人。しかもそれは前吏部尚書に言われてやった事。もし自分で何か掴みたいなら自分で行動を起こすべきだ。このままではあいつは死ぬ」
「そんな!」
「それがあの城にいるって事さ。自分の目で見て、聞いてそして判断して、誰を自分の元に置くべきか。外だけじゃない。戦いってのは内にもあるもんさ。けどあいつはどうだい?自分の周辺においている人物ってのはおじさんの時の官吏じゃないかな?それはつまりおじさんの手がかかった人材。自分の手で国を成り立たせていないに等しいさ」
 残念だが紀清の言う事は最もだと思った。盈月の周辺についてはあまり詳しくは知らない。だが紀清の言う通りなら、政務のほとんどは官吏の言いなりなのかもしれない。それではたしかに国が成り立たない。
「どうしたら盈月が救われるのだろう?」
「救いの道なんてないさ。それは自分が創るものだ。まともに人間関係も築けないやつが皇帝なんてやってけない。うーん……ちょっとした賭けだったが、やはり俺の間違いだったのかもしれないな」
「そんな!それに賭けって……」
「莉春ちゃんにはどうあいつが見える?おじさんはね。これまでと違う国の在り方を、あいつなら出来ると思ったんだよ」
 盈月に賭ける想い。紀清はそれに賭けたのだという。まだ莉春としても盈月の人となりの一部しかしらない。もし紀清の言うような何か・・があるのだとしたら、莉春自身もそれを見てみたと思った。
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