一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第四章

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 ぶつぶつと言葉を発しながら仕事をしていると、どこからか微笑が聞こえてきた。だがその声は女のものではない。莉春は一気に警戒をした。
「だ、誰?」
「いや驚いたよ。こんな小さいお嬢さんがあいつを憂いているなんてね」
 本棚の影から現れたのは肌は日に焼け浅黒く、髭も伸び放題の五十前後の男。いや、実際はもっと上かもしれない。だが恵まれた体系と、その目が濁りなく綺麗という印象。浮浪者感はあまりないのだが。
「おじさん誰?」
「うーん……そこを言っちゃうと面白くないんだけど、誰だと思う?」
「知らないわよ。それよりもここは女人のみの場所。男の人は入っちゃ駄目なの。表にいる用心棒を呼ぶわよ」
「その前におじさんがお嬢ちゃんの腕を掴んで抑える方が早いと思うけどね」
 なんとも掴めない男。だが言っている事は正しいのだろう。今ここで莉春が叫ぼうとすれば男が自分を取り押さえるのが先だ。まずは冷静になろう。
「それで……ここに来た目的はなに?ここには金品はないわよ」
「金は腐るほど持ってるから問題ないよ。この国に立ち寄ったのはたまたまさ」
「嫌味な人。それで?立ち寄るって事は旅人なの?」
「そうだね。旅はもう十年以上してるかな?」
 そんな旅人が何故ここに立ち入る事が出来たのか。表は用心棒がいて、高い塀もある。となれば裏から入るしかない。だが裏にあるのは皇族や官吏のいる弦丘城げんきゅうじょうだ。つまり……
「あなた皇族の関係者?」
「おっ、察しがいいね。そうだよ。おじさん前の皇帝やってた劉紀清りゅうきせいって言うんだ」
「なっ……前の皇帝……」
 ではこの人物が盈月に皇帝の座を押し付けた張本人。もう少し威厳のある人物かと思ったが、飄々としている上、身なりが小汚い。だがよく見れば目元が似てなくもない。
「本当に……盈月のお父さん?」
「そうだよ」
 それにしては若い気もする。それにどうしてここに来たのか……
「何をしに来たの?」
「別に深い意味はないよ。本当にたまたまだからさ。それと息子の皇帝姿をちょこっと見たいと思ってね」
 その言葉が真実なのか否か。どうしても莉春はこの紀清という男に幾つかの質問をぶつけたくなった。
「どうしてあなたは皇帝をやめたの?どうして盈月に皇帝を進めたの?それに今まで旅をしてたって……そのせいで盈月がどういう思いをしてきたか……」
「うーん……お嬢さんは質問が多いな。それにおじさんまだお嬢さんの名前聞いてないよ。まずは自分の事を話すのが筋じゃない?」
「……莉春。楊莉春ようりしゅんです」
「成程ね。莉春ちゃんはあいつの理解者ってわけなんだね」
 理解者とは何だと幾何の疑問が浮かんだ。そんなものではない。たまたま出会いそして盈月の決して表に出さない顔を知ってしまっただけだ。
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