一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第三章

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「でも兄弟もたくさんいて、母親にちょっと問題があったとして、どうして盈月が皇帝になったの?」
「それは簡単です。前皇帝の一言で決まりました」
「はっ?つまり前皇帝はまだ生きてるんですか?」
「えぇ。今はどこで何をしているかはわかりませんが、突然世界を巡る旅をしたいとおっしゃいまして」
 一国の皇帝がその職務を投げうって世界を旅するとは……莉春自身、自分はかなりお転婆で破天荒なのだろうと実感していたが、さらにそれを上回る人物がいるとは思いもしなかった。むしろ権力が全てでもあるその地位を捨てるとはよっぽど前皇帝もその職が嫌だったのか。
「いえ、皇帝は仕事は全うされてましたし、特段それを嫌だと言うお人柄ではありませんよ。ただ、自分はここにいるだけで周りの事を何も知らない。それで自分の人生を終えていいのかとおっしゃってたようです」
「なんとなく……言いたいことはわかる気もしなくもないかなぁ……」
「別に自分は名君でもなんでもない。自分がいなくても優秀な息子達はいっぱいいると口癖のようにおっしゃられたとか」
「じゃあ何で盈月だったの?」
「さぁ、そのお心は私達にはわかりませんが、前皇帝陛下の勅命であり、誰も異論を言えなかったようです。もちろん主上もまた同じです」
 勅命と言われれば誰も逆らえない。何よりも強い権限を持つからだ。当の盈月も何故自分なのかと頭を悩ませたそうだが、それを考える暇は初めのうちだけだったそうだ。
「他の兄弟を差し置いて主上が皇帝となられと事で、それまで後宮にいた妃嬪達には前皇帝の妃嬪という名前以外何もかもを失いました」
「えっ?それって城を追い出されたって事?」
「端的に言えばそうですが、今後の後宮は主上の為の妃嬪を迎える場所となります。なのでそれまでの妃嬪は別の住まいを用意され、そこで生涯を過ごす事になりました」
 つまり城ではない場所。各々の家元に戻った者もいれば、冠耀が用意した住まいに大人しく住まう者、そうでない者と散り散りになったそうだ。ただ、皇后だけは扱いが変わる。皇后はまだ城には住んでいるが、ほとんど冠耀に関わる事はないのだそうだ。
「もう一つの問題は兄弟達です。当時主上はまだ十五、六になられた頃で、もちろん帝王学は学んでいましたが、自分の兄弟をどう扱えばいいかわかりませんでした」
 まだ成り立ての皇帝に兄弟を扱う術は持ち合わせていない。だがそんな中でも助け船はあったようだ。
「当時の吏部尚書が大変怜悧れいりな方で、自由奔放な前皇帝を嫌ってはいましたが、特に悪い事をしているわけでもない、自分達の主たるに値するかはまずまずの及第点という理由から辞職せずにいたそうです」
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