一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第三章

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 子を成せばしばらくの間、男女としての触れ合いがないのは莉春も兄夫婦を見ているので知っている。だが相手は皇族で、同じ居住まいにはたくさんの妃嬪がいる。とくに先の皇帝には何人といわず妃嬪もおり、盈月自身にも兄弟が多くいた。その中にあって女達の皇帝の寵愛をめぐる争いも日々絶えなかったそうで。
「主上の母君はそれほど夫人としての順番は高くはありません。ですが皇帝に対する執着という意味では群を抜いていたかもしれませんね。子が腹にいるから愛を得られない。ならば子などいなければいい。そういう考え持ち、自ら子を流そうとしたのです」
「そ、そんな……でも盈月は生まれてきているわけで……」
「その当時、母君付きの侍女が皇帝に頼み込み、子を産むよう、流さぬように母君に言って欲しいと懇願したのです」
 子はこの国では宝だ。それを聞いた皇帝は盈月の母親を説得し、なんとか盈月を産むまでは出来た。だが問題はその後で、母親は盈月には無関心。唯一名を与えただけで、それ以外の事はしようとしない。もちろん侍女達が盈月の世話をしていたが、それでも母親の愛情は皇帝にだけ向かった。だがそのころには皇帝は別の妃嬪を寵愛していた。
「それを知った母親は、どうすれば皇帝はもう一度自分に振り向いてくれるかそればかり考えていました。まさかその矛先が主上に向かうとは誰も思っていませんでした。母君は主上を殺そうとしたのです。来てくれなくては主上を殺すと言い……」
 自体を知った皇帝は母親から盈月を奪う。しかしこのまま母子が一緒にいても悪影響である事は確かだと思い、皇帝は盈月を遠い親戚に預けたそうだ。
 しかしそんな事をした為か、母親への寵愛などなくなり、見向きもされなくなった。壊れゆく心はついに限界を迎え、母親は朝議の最中に入り込み、皇帝や官吏達の前で首を斬って自害したのだ。
「この事は弦丘城では御法度なのです。ですが母君の自害により親戚の家から戻された主上は、お歳が三歳になっておられるのもあり、そこそこに自我もありました。そこが自分の家に思えないとよく言っておられました」
 城内の大人達の間で御法度とされている禁忌ではあるが、元々盈月の母親をよく思わなかった妃嬪や盈月の兄弟達にとっては格好の話である。兄弟にその事でからかわれたりもしたし、それとは関係のない嫌がらせも多々受けていた。
「そんな……酷い」
「それが皇族というものですよ。見知らぬ女達が仲良く出来るほど甘い世界ではないのです」
 時折見せる盈月の悲しい表情。その理由を知る事が出来た莉春。だが国を創る立場にある皇帝がたくさんの女と子を成すのもわからなくもない。そこで生まれる女達の軋轢あつれき。妃嬪達が求める皇帝からの寵愛もわからなくもない。どちらが悪いとも言えない莉春にとって、たしかに盈月が言うよう城は魔窟なのだと思った。
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