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第三章
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結局、あの晩に盈月は満足したのか、莉春を離して何も言わないまま立ち去った。
時折見せる盈月の弱い部分。普通それを見せるのは奥方にではないかとも思ったが、盈月自身なにかあるのかもしれない。それに元々政略結婚だと言っていた。もし弱い部分を見せ反旗の材料になりかねないというのか。上にいる人間の考えている事など、莉春にはわからないが、もしそうならば自分の前で見せてくれてもいいとも思う。
「私よりも年上なのに困った人だな」
翌日も何もなく井戸で水汲みをしていた莉春は、誰もいないのをよそに言葉が漏れ出た。
ただ、そこまでして盈月が魔窟と呼ぶ弦丘城がどのような場所なのか、少しだけ興味が出てしまった。
「この林の向こうだよね?」
どれほどの距離があるのかわからないが、さすがに今の時間に行くのはまずいはずだ。夜中にこっそり行ってみよう。莉春はそう思い夜を待つ。
夜も深くなり、皆が寝静まった頃を見計らい、莉春はこっそりと部屋を抜けた。
「この先だよね。よし!」
そう思い足を踏み入れようとしたときだった。
「莉春」
声をかけられ振り返ると、そこには景美がいた。
「景美様……」
「こんな夜中に何をしているのです?」
「えっとそれは……」
「この先には弦丘城。つまり皇族方が住まわれる場所です。あなたがおさおさ出向ける場所ではありませんよ」
「そ、そうですよね。ただ少しだけ気になって……」
なんと言えばいいのかわからないでいた莉春だが、何かを悟った景美がため息交じりに「主上の事ですか?」と聞いてきた。
「あなたと冠耀様については聞いております」
「えっ?」
「本人から直接聞いたので、他の人は知りません」
「あ、そうなんですか……」
景美は莉春と盈月の事を知っている。それを聞いてさらに何を言えばいいのか。困っていると景美は踵を返し、「ついていらっしゃい」と言われ、景美の後を大人しくついていく事にした。
連れられたの景美の部屋。景美は莉春に座る様促し、お茶を莉春に振舞ってくれた。
「あの、盈月の事は国の皇帝以外にも知っているって感じですけど」
「そうですね。主上が幼少のおりから知っていますよ。さて、どこから話したらいいものか」
そう言うと景美はまず盈月の幼少期について話をしてくれた。よく城から抜け出し紫水殿にやってきていた事。その時たまたま景美と出会い、景美がかくまっていた事を。
「あの方はあの城では孤独なのです」
「えっ?どういうことです?」
「生まれてすぐに主上は母君から引き離され、当時の皇帝の遠い親戚の元に預けられていたのです」
「何で……?」
「主上の母君は主上を懐妊してすぐはよかったです。ですが懐妊してしばらくの間、皇帝の寵愛が他の妃嬪に向かわれたのです」
時折見せる盈月の弱い部分。普通それを見せるのは奥方にではないかとも思ったが、盈月自身なにかあるのかもしれない。それに元々政略結婚だと言っていた。もし弱い部分を見せ反旗の材料になりかねないというのか。上にいる人間の考えている事など、莉春にはわからないが、もしそうならば自分の前で見せてくれてもいいとも思う。
「私よりも年上なのに困った人だな」
翌日も何もなく井戸で水汲みをしていた莉春は、誰もいないのをよそに言葉が漏れ出た。
ただ、そこまでして盈月が魔窟と呼ぶ弦丘城がどのような場所なのか、少しだけ興味が出てしまった。
「この林の向こうだよね?」
どれほどの距離があるのかわからないが、さすがに今の時間に行くのはまずいはずだ。夜中にこっそり行ってみよう。莉春はそう思い夜を待つ。
夜も深くなり、皆が寝静まった頃を見計らい、莉春はこっそりと部屋を抜けた。
「この先だよね。よし!」
そう思い足を踏み入れようとしたときだった。
「莉春」
声をかけられ振り返ると、そこには景美がいた。
「景美様……」
「こんな夜中に何をしているのです?」
「えっとそれは……」
「この先には弦丘城。つまり皇族方が住まわれる場所です。あなたがおさおさ出向ける場所ではありませんよ」
「そ、そうですよね。ただ少しだけ気になって……」
なんと言えばいいのかわからないでいた莉春だが、何かを悟った景美がため息交じりに「主上の事ですか?」と聞いてきた。
「あなたと冠耀様については聞いております」
「えっ?」
「本人から直接聞いたので、他の人は知りません」
「あ、そうなんですか……」
景美は莉春と盈月の事を知っている。それを聞いてさらに何を言えばいいのか。困っていると景美は踵を返し、「ついていらっしゃい」と言われ、景美の後を大人しくついていく事にした。
連れられたの景美の部屋。景美は莉春に座る様促し、お茶を莉春に振舞ってくれた。
「あの、盈月の事は国の皇帝以外にも知っているって感じですけど」
「そうですね。主上が幼少のおりから知っていますよ。さて、どこから話したらいいものか」
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「あの方はあの城では孤独なのです」
「えっ?どういうことです?」
「生まれてすぐに主上は母君から引き離され、当時の皇帝の遠い親戚の元に預けられていたのです」
「何で……?」
「主上の母君は主上を懐妊してすぐはよかったです。ですが懐妊してしばらくの間、皇帝の寵愛が他の妃嬪に向かわれたのです」
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