一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第三章

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 決していけない事を書いているわけではない。答えは人それぞれだ。だが人というのは肯定する表現を好むものだ。このように否定的な意見も珍しい。それを書いたのが莉春である事も気に入っていると言ってもいい。
「では莉春を女官として召し上げますか?」
「それは景美の仕事だ。我が干渉する事ではない。だが、何も全て同じでなくともいいのでは?と我は思っただけだ」
「成程。参考に致します」
 実に面白い娘。莉春がもう少し年齢的に上であれば、側室として召し上げるのもいいかもしれないと冠耀は思った。だが周りの官吏達に止められるだろうが。
「莉春の意志を優先する故、傍におれぬのは世知辛いな」
「その気持ちを二人の奥方に向けられてはいかがですか?」
「十分役目は果たしておる。望むように子も設けた」
「そういう事ではありません。全く……こうも人の心に疎いとは」
 景美の言わんとする事もわからないわけではない。だがあの巣窟にはいるだけで息苦しさを覚える。冠耀の為にと着飾り持成す二人を決して嫌いではないが、政治的な政略結婚故にそれ以上を踏み込もうとも思えなかった。その点何故か莉春相手だと自然と息も出来る。
「さて、そろそろ我は戻る」
「畏まりました。くれぐれも他の者に……」
「わかっておる」
 そう言って冠耀は景美の部屋を後にした。
 いつものように城へと向かう道を歩きながら、真夜中に莉春に出会った日を思い出した。結局そのよく週に冠耀は莉春に会いに行かなかった。政務が忙しいわけでも寝坊したわけでもない。ただ会うのに気まずかったからだ。
 自分の正体、そして自分の弱さを見せつけてしまい、どのような顔をして莉春に会えばいいのかわからなくなったのだ。
「さすがに二度目はないだろうな」
 こんな夜更けにまた会う事はない。そう思っていた冠耀だったが……
「盈月」
 まさかの二度目があるとは。そこにいたのは莉春だった。どうやら偶然なのだろうが莉春は目を丸くしたかと思えば、目を吊り上げて怒りの形相となる。
「ちょっと!なんで全然顔見せないのよ!」
「すまなかった。私とて忙しい身でな」
「まぁ一応、皇帝だから仕方ないよね。でも約束を破る皇帝もどうなのかしら?」
 そこにはいつもと変わらない莉春がいる。なんだか心が落ち着く。そう思った時、冠耀は莉春を抱きしめていた。
「ちょっ!ちょっと!盈月!」
「そなたといると何故か落ち着く。つい弱い自分をさらけ出してしまう」
 じたばたと暴れ、その腕から逃れようとする莉春だったが、冠耀の言葉を聞いて静かになった。
「何かあったの?」
「いや、何もないよ」
「変なの」
 観念したのか、莉春はしばらく冠耀に抱きしめられたままでいた。
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