一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第三章

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「いいですか?この神殿にある祈祷場には異界より御使いが召喚されます」
 陵妓りょうぎの話を呆然と聞きながら、莉春りしゅん盈月えいげつの事を考えた。
「これ!聞いているのですか?」
「あっ、すみません!」
 女官採用試験までの間、この神殿の歴史などは女官である陵妓が教える事になっている。
 この神殿には異界より御使いと呼ばれる者が召喚されるそうだ。それは各国に同じような神殿と現象が起こる。ただし消えては現れではなく、いつ現れるのかは不明らしい。現にこの国にも何十年か前に御使いがいたそうだ。滝子と呼ばれる人物で、召喚されてから天寿を全うするまでこの神殿の御使いとして暮らしていたそうだ。
 御使いはこの世界の言葉を話せない。話せる為には男性と契りを交わさなくてはいけないそうだ。契りを交わした後、二人の間に何かあるかと言えば、特別な事はないそうだ。稀にある事もあるようだが、多くはその一度きりなのだと陵妓は言った。
「御使いと契りを交わした者は、大なり小なりの至福を受ける事となります」
「至福?それってご褒美的な?」
「そうですね。簡単に言ってしまえばそうです」
 言葉の為に見知らぬ男に抱かれる。抱かれた後は何事もなかったかのようにお互い過ごす。そんな一度の契りは御免だと莉春は思った。それよりも異界より召喚される方がもっと嫌だ。言葉も通じない世界に行くなど考えられない。
「そう考えると、田舎にいれば知らない事ばかりね」
「そうですね。莉春の出身でその知識があっても仕方ないですからね」
「あー、じゃあさ。皇帝については?」
 つい昨日の晩に盈月の本来の姿を知った。だがそこについて盈月本人に聞いていいものなのかわからない。本人もあまり話したくなさそうだからだ。
「現皇帝についてはご存じで?」
「うーんわからないなぁ……」
 ここはあえて知らないふりをしておこうと思った。その方が知るのに聞きやすい。
「では、この国の皇帝は劉冠耀りゅうかんよう陛下。お歳は二十八になった頃かしら?十七より皇帝になられました」
「へえ、けっこうわかい時から皇帝職してるんだね」
「それもかなりの悶着があったようです。なにせ前皇帝陛下が突然退位を申し出て、突然今の陛下を名指ししたのですから」
 それもすごい。皇帝といえば権力の象徴のようなものだ。それを手放すとは思い切った事をするというよりも、少々変わっているのだなと莉春は思った。その考えは当たり、どうやら世界中を旅したいからというなんとも奇天烈な理由だ。
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