一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第二章

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 夜が更けた頃、ふと目が覚めた莉春は水を飲むため水場へと向かった。
 大きな欠伸をしながら歩いていると、ふと目線の先に見知った顔が歩いているのを見つける。
「あっ、盈月!」
 莉春の声に驚いた盈月が莉春の方を見た。
「そなたこんな時刻じかんに何をしているのだ?」
「それはこっちの台詞よ!それにあなたにはいろいろと聞きたい事もあったのよ!」
 引っ詰めながら話す莉春に「わかった。話を聞く」と言って、莉春に静かにするよう促した。たしかに今は一番夜が深い。
 二人は井戸のある場所まで移動した。
「それで?そなたが聞きたい事とは?」
「まずは女官採用試験の為のあれこれ。あれはあなたが用意したのよね?」
「ふむ。そなたが困っておったからな」
「それに関しては有難いわ。けどどうして?」
「どうしてと言われても先に述べたように、そなたが困っていたからだ。私がそうしたかったからではいけないか?」
 これは盈月の完全な善意。その心には裏はないのだと盈月は言う。
「それなら甘んじて興じるわ。後、これは大事な事。あなたは何者?」
「何者かと言われたら何者に見える?」
「話をはぐらかさないで。この先、あるのは皇帝が住むお城でしょ?って事はあなたはお城の関係者?」
 まさかこんな短い間に自分の居住まいを知るとは。大方、誰かに聞いたのだろう。そうなるといろいろと厄介になってくる。
「そうだな。あの城の者ではある」
「どうしてそんな人がここへ?」
「息抜きだ。あそこは息が詰まる。莉春には想像も出来ないような有象無象、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする魔窟だ」
「有象無象って……あそこには皇帝もいるんでしょ?そんな事言っていいの?」
 どうやら莉春は盈月を城の関係者だが、兵士が何かと思っているのだろう。なかなかに面白い発想をする。
「莉春。私の本当の名は、劉冠燿。盈月とは幼少期に母がつけた名。今は国を担う皇帝をしている」
「はっ?盈月が……皇帝?」
 その言葉を聞いて、大きな目がさらに見開かれた。開いた口が塞がらない莉春の表情は面白い。
「ここへは幼少期から立ち入っている。もちろん秘密裏にな。莉春が何も言わなければ私はこれからもここに来るが、どうする?」
「どうするって……言うって言ったら?」
「私はここには来ない。あの魔窟で窮屈な思いをしながら死ぬだろうな」
「死ぬって、大袈裟な。そんなこと言われたら黙るしかないじゃない」
「そうしてくれるとありがたい。そなたは私の側近にはいない稀有な存在だ。こうして話をするだけでも楽しい」
 そう言うと、莉春の声を待たずして林の奥、盈月の住む弦丘城げんきゅうじょうへと戻って行った。
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