一輪の白百合をあなたへ

まぁ

文字の大きさ
上 下
16 / 105
第二章

7

しおりを挟む
 ここは冠燿にとっては特別だ。
 一体兄弟は何人いるか、自分が何番目かもよくわからない中、暇と城での窮屈さを覚え幼き日にやって来た場所が紫水殿だった。
 その時たまたま出会ったのがまだ見習い女官だった景美だ。以後、冠燿が顔を出す度に景美に匿われながら悠々自適に過ごしていた。
 そんな日常が一転したのは自身が皇帝になった時だ。もちろん上に何人か兄弟がいるが、当時の皇帝が退位すると突然言い、その後継を冠燿にと言った。そこからはよくある即位における問題が山積した。
 兄弟達からは日々首を狙われる日常がしばらく続いた。もちろん今もないとは言えないが。
 冠燿が皇帝となって行なったのは周辺整理。まず敵視する兄弟や疑わしい兄弟は自分の元から離す事をした。だが離しただけで後に謀反など起こされてはたまったものではない。
 そこでこの地域では皇族の次に地位のある皇后鄭妃ていひと婚姻し、鄭妃の一族に見張らせるようには今のところしている。蓮華れんかもまた同じだ。皇族の婚儀に愛などない。全ては政治的利用されるだけだ。それは二人の夫人もわかってはいる。だが二人は冠燿からの愛を欲しているとは、当の本人は全く気がついていない。
「そろそろ次の乙女むすめを娶ってはと他方から言われて参っている」
「まぁ、強い国家を作るのが貴方様のお役目でありますからね」
「我はこれ以上の火種を生みたくはないのだがな」
 自分が退位する後にまた争いが起こる。元来平和が続いたのもあり、冠燿は争いを好まない。
「貴方様は私たちとは立場も身分も違います。ですがそれを差し引けば普通の人。貴方らしさをお忘れになりませぬよう」
「そうだな。我らしさか」
 注がれた茶を喉に通しながら、ふと莉春の事を思い出す。
「莉春はいい女官となると思うか?」
「さぁ、私にはなんとも言えませんが、少々お転婆なところを直していかなくてはと思いますね。全ては採用試験の合否次第ですが……」
「そうか。だがあれがここにいて忙しく走り回る姿は面白いかもしれぬがな」
 そんな莉春の姿を思い浮かべて冠燿は小さく笑った。
 まだ何ものもの汚れがない無垢な存在。人生における駆け引きも知らぬうちが莉春にとっては幸せなのかもしれない。あるいは莉春自身が何かを変えるか。未発展の少女の成長は冠燿にとって楽しみで仕方なかった。
「邪魔をしたな。我はそろそろ帰る」
「では裏門までお送りしましょう」
「いや大丈夫。この時刻じかんなら人はいぬだろう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。 十分以上に勝算がある。と思っていたが、 「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」 と完膚なきまでに振られた俺。 失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。 彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。 そして、 「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」 と、告白をされ、抱きしめられる。 突然の出来事に困惑する俺。 そんな俺を追撃するように、 「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」 「………………凛音、なんでここに」 その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

処理中です...