一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第一章

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 所代わりここは弦丘城げんきゅうじょう。皇帝やその奥方が住む後宮がある城である。
 この城の主、名は劉、あざな冠燿かんようと言う。現在は正妻であり皇后である鄭妃ていひ、側室で第二夫人の蓮華れんかがいる。
 鄭妃には一男二女、蓮華には二男の子が現在おり、皇族としては男児にも見舞われ安泰の政権を今のところ行っている。
「主上?いかがなされましたか?」
 何やら楽しそうに執務を行う冠耀に、傍仕えの丞黄じょうきは眉一つ動かさずに尋ねる。
「ふむ。田舎の出なのだろうな。我を知らぬ民がおった」
「はっ?」
「なかなかの面白い娘でな。我に説教を唱えたのだ」
「ではその者を捕らえ罰を与えましょうか?」
「誰がそんな事を言う。そういう人物がいて、まだまだ我の名声というのは小さいものだなと思っただけだ」
 妙に生真面目な丞黄に冠耀はため息を漏らす。
 紫水殿で出会った莉春という娘はなかなかに肝の据わった娘だった。幼い頃より紫水殿の庭に忍び込んでは一人時間を潰していた。今もたまに訪れる場所だが、初めてあの場で人に出会った。それが莉春で、誰かと尋ねられ、とっさに幼き頃に呼ばれていた盈月という名を名乗ってしまった。皇帝になってからはこの名を呼ぶものなどいない。皇后である鄭妃ですら知らぬ名であろう。
「それはそうと、主上宛てへ書状が届いております」
「誰だ?」
宦官かんがんからでございます」
 それを聞いて丞黄の手にある書状を読む気もしなくなった。どうせまた同じことだろうと思ったからだ。
「いつもの事だろう。なら見る価値もない」
「しかしこのままというわけにもいきません。より多くの子を設け強い国を作る事もまた主上のお役目です」
 後宮を取りまとめる宦官の言う事は決まっている。嬪妃となるべく者の選定。第三夫人、つまりは側室を入れよと言ってきている。
「これ以上の争いの間違いではないか?」
「そんな事はありませんよ。子を設けてもらい、多様な中から主上の後継となる者を選ぶのもまた大切な事です」
「我は今、それを望んでいない。もう執務に集中する。下がれ」
 そう冠耀に言われ、丞黄は一礼してその場を後にした。
「強い国を作り、子を設ける。皇帝としてはそれでよいのだろうな。だが我の人間としてはそれでいいのか?ま、それを言ったら丞黄の顔を青くさせるのだろうがな」
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