5 / 105
第一章
4
しおりを挟む
紫水殿の女官となる為、見習いとして働く事を許された莉春は、この神殿内に通してくれた女官陵妓に連れられて、これから莉春が住む場所を案内してくれた。
「あなたが住む場所はここです。二人一部屋。あぁいた。朱里。この子は楊莉春。ここで働く事になった者です。ここでの事を教えてあげて下さい」
「畏まりました」
茶色い髪、頬にそばかすの散った朱里という少女は、莉春と似た年頃だが、目つきも鋭くしっかりした印象を与えた。
「それでは私はこれで。莉春。朱里の言う事を聞いてお勤めなさい」
「はい」
そそくさとその場を後にした陵妓。残った莉春と朱里。
「えっと、私は楊莉春。よろしくね」
「よろしく。あなたの寝床はこっち。敷物は毎日変えて頂戴。厠と水場は外で共用。朝は寅の刻よ。遅刻しないでね」
「そ、そんな早いの?」
「当たり前でしょ。ここをどこだと思ってるの?御使いを祀る神殿。普通の寺院なんかとは違うのよ」
ここは莉春が思うような甘い場所ではないようだ。それどころか、心なしか朱里はあまり莉春に関わりたくないような雰囲気を持っている。
「ねぇ、気になってたんだけど、御使いって何?」
「はぁ?あなたそんな事も知らないでここに来たの?」
「えっ?うん。とにかくしっかりした仕事に就きたくて」
「呆れた……これだから田舎者は」
大きなため息と共に呆れたように言う朱里だが、ここがどういう場所なのかを莉春に丁寧に教える。
「まず御使いって言うのは、異界からやってきた神の使い。だから御使いって言うの」
「神が異界から?どうやって?」
「知らないわよ。でもそう言う言い伝え。この世界にある幾つかの国、それぞれを象徴する御使いがいて、その者が現れる時、その国には大いなる至福が訪れるって言われてるの。例えばこの国は豊穣と子宝」
「へぇ、じゃあこの神殿に御使い様がいるの?」
「残念ながら崩御されてそれ以降姿をお見えになられてないの。まぁ、これもいつでもいるってわけではないらしいわ」
この世界にはまだまだ知らない事があるのだなと莉春は朱里の話を聞き入る。当初の冷たい印象とは違い、朱里はどうやら世話好きみたいだ。
「御使いはこの各々の神殿にある祈祷場に姿を見せるらしいわ。だからここは他とは違うの。それに御使い様もだけど、私達下働きから女官にいたるまで、全ての女は処女でなくてはいけないの」
「そういえばこの神殿の中に男の人はいないね」
「あなたが住む場所はここです。二人一部屋。あぁいた。朱里。この子は楊莉春。ここで働く事になった者です。ここでの事を教えてあげて下さい」
「畏まりました」
茶色い髪、頬にそばかすの散った朱里という少女は、莉春と似た年頃だが、目つきも鋭くしっかりした印象を与えた。
「それでは私はこれで。莉春。朱里の言う事を聞いてお勤めなさい」
「はい」
そそくさとその場を後にした陵妓。残った莉春と朱里。
「えっと、私は楊莉春。よろしくね」
「よろしく。あなたの寝床はこっち。敷物は毎日変えて頂戴。厠と水場は外で共用。朝は寅の刻よ。遅刻しないでね」
「そ、そんな早いの?」
「当たり前でしょ。ここをどこだと思ってるの?御使いを祀る神殿。普通の寺院なんかとは違うのよ」
ここは莉春が思うような甘い場所ではないようだ。それどころか、心なしか朱里はあまり莉春に関わりたくないような雰囲気を持っている。
「ねぇ、気になってたんだけど、御使いって何?」
「はぁ?あなたそんな事も知らないでここに来たの?」
「えっ?うん。とにかくしっかりした仕事に就きたくて」
「呆れた……これだから田舎者は」
大きなため息と共に呆れたように言う朱里だが、ここがどういう場所なのかを莉春に丁寧に教える。
「まず御使いって言うのは、異界からやってきた神の使い。だから御使いって言うの」
「神が異界から?どうやって?」
「知らないわよ。でもそう言う言い伝え。この世界にある幾つかの国、それぞれを象徴する御使いがいて、その者が現れる時、その国には大いなる至福が訪れるって言われてるの。例えばこの国は豊穣と子宝」
「へぇ、じゃあこの神殿に御使い様がいるの?」
「残念ながら崩御されてそれ以降姿をお見えになられてないの。まぁ、これもいつでもいるってわけではないらしいわ」
この世界にはまだまだ知らない事があるのだなと莉春は朱里の話を聞き入る。当初の冷たい印象とは違い、朱里はどうやら世話好きみたいだ。
「御使いはこの各々の神殿にある祈祷場に姿を見せるらしいわ。だからここは他とは違うの。それに御使い様もだけど、私達下働きから女官にいたるまで、全ての女は処女でなくてはいけないの」
「そういえばこの神殿の中に男の人はいないね」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる