一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第一章

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 紫水殿の女官となる為、見習いとして働く事を許された莉春は、この神殿内に通してくれた女官陵妓りょうぎに連れられて、これから莉春が住む場所を案内してくれた。
「あなたが住む場所はここです。二人一部屋。あぁいた。朱里しゅり。この子は楊莉春。ここで働く事になった者です。ここでの事を教えてあげて下さい」
「畏まりました」
 茶色い髪、頬にそばかすの散った朱里という少女は、莉春と似た年頃だが、目つきも鋭くしっかりした印象を与えた。
「それでは私はこれで。莉春。朱里の言う事を聞いてお勤めなさい」
「はい」
 そそくさとその場を後にした陵妓。残った莉春と朱里。
「えっと、私は楊莉春。よろしくね」
「よろしく。あなたの寝床はこっち。敷物は毎日変えて頂戴。厠と水場は外で共用。朝は寅の刻よ。遅刻しないでね」
「そ、そんな早いの?」
「当たり前でしょ。ここをどこだと思ってるの?御使いを祀る神殿。普通の寺院なんかとは違うのよ」
 ここは莉春が思うような甘い場所ではないようだ。それどころか、心なしか朱里はあまり莉春に関わりたくないような雰囲気を持っている。
「ねぇ、気になってたんだけど、御使いって何?」
「はぁ?あなたそんな事も知らないでここに来たの?」
「えっ?うん。とにかくしっかりした仕事に就きたくて」
「呆れた……これだから田舎者は」
 大きなため息と共に呆れたように言う朱里だが、ここがどういう場所なのかを莉春に丁寧に教える。
「まず御使いって言うのは、異界からやってきた神の使い。だから御使いって言うの」
「神が異界から?どうやって?」
「知らないわよ。でもそう言う言い伝え。この世界にある幾つかの国、それぞれを象徴する御使いがいて、その者が現れる時、その国には大いなる至福が訪れるって言われてるの。例えばこの国は豊穣と子宝」
「へぇ、じゃあこの神殿に御使い様がいるの?」
「残念ながら崩御されてそれ以降姿をお見えになられてないの。まぁ、これもいつでもいるってわけではないらしいわ」
 この世界にはまだまだ知らない事があるのだなと莉春は朱里の話を聞き入る。当初の冷たい印象とは違い、朱里はどうやら世話好きみたいだ。
「御使いはこの各々の神殿にある祈祷場に姿を見せるらしいわ。だからここは他とは違うの。それに御使い様もだけど、私達下働きから女官にいたるまで、全ての女は処女でなくてはいけないの」
「そういえばこの神殿の中に男の人はいないね」
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