上 下
10 / 32
第一話

8

しおりを挟む
 薄暗く周囲がよくわからない。だが何かが自分を掴んでいるのはわかる。それが何かぬるぬるした何かだ。
「何?なんか気持ち悪いんだけど……」
 逆さまでいるだけでも気分が良くないのに、それに輪をかけてぬるぬるした何かが真樹の体を這っている。
「これもしかして触手の類?」
 そうとしか思えない。触手と言われて完全にエロゲーしか思い浮かばなかった。異世界召喚されてまさか自分がエロゲーのような対象になるとは。普通ここはかわいい女の子じゃないのか。女の子が触手に襲われあられもない姿になるのでは。そんな事を考えていたが、どうやらあられもない姿になるのは自分ではないのか。
 それまで服の上から這っていた触手だが、何故か肌にその感覚があるのだ。
「これってもしかして服が溶かされている?」
 溶かすと言えば先ほどのかわいい顔をしたスライムだ。まさかここはスライムのいる洞窟なのか。しかも真樹はレティにまんまと騙されたのでは。
「い、いやだ!誰か……誰か助けて!」


 真樹を探していたカイとフェイは、ある洞窟の前で佇む一人の少年を見つけた。
「君、ここで君くらいの身長の男の子見なかった?」
 フェイが訪ねてみると、少年は「あー……もしかして」と何か知っている風の様子だ。
「あの子、もしかして君たちの仲間?」
「知っているのか?」
「知ってるも何も、僕に着いて来たからお使いを頼んだだけ」
「お使い?」
「そう、そろそろかな」
 そう言うと少年が洞窟に入ろうとした時だった。
「誰かーーー!助けて!」
「真樹!」
 その声は紛れもない真樹の声だ。カイは急ぎ洞窟の中へと入って行く。その後をフェイも「待てよ!」と言って着いて行く。
 中へと進んで行ったカイ。辺りは薄暗くよく見えない。すると後からやって来た少年が明かりを灯した。杖の先端が輝き、周囲が見渡せたが、明かりの届くその先にいたのは巨大なぷにぷにしたモンスターで、そのモンスターから出た触手のようなものに体中を拘束された真樹がいた。
「真樹!」
「カ、カイ……助けてよぉ……」
 恐怖からかぽたぽたと涙を流す真樹に、「すぐ助ける!」と言ったカイだが、背後から少年の「待って」と言う声が聞こえた。
「僕はこの巨大スライムが欲情して出した体液が欲しいんだ。それを採取したら倒していいから、それまで待って頂戴」
「何言ってるんだ……」
「いいから。下手に手を出すと君もあの子のようになるよ」
 平然とする少年はスタスタと巨大スライムと言われるモンスターの元に近づいて行った。
「カイ。あのモンスターは依頼のあったモンスターだ」
「えっ?まさか真樹は一人でこいつの討伐を?」
「いや、違うだろ。でも早く助けないと!」
「まぁ待て。あの子の言う通り、下手に手を出さない方がいい」
「どういう事だ?」
 どうして真樹が助けを呼んでいるのに誰も手を出さないのか。聞けばこのモンスターから出る体液は基本的に消火液なのだが、特殊な条件でその体液の成分が変わるらしい。それは薬の調合にも使われる貴重なものだが、その条件というのがスライムの性的興奮らしい。
「待て!なんでそんな事に?」
「いやそこまでは知らないけど、あの巨大スライムは真樹に欲情中なのだとみた」
 そんな悠長な事を言っていていいのか。カイはすぐにでも真樹を助け出したかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

僕の大好きな旦那様は後悔する

小町
BL
バッドエンドです! 攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!! 暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。

誓いのような、そんな囁き

涼雅
BL
浮気なんてものとは程遠い存在のはずだった 俺とお前の関係でそんなこと、ありはしないと思っていた それはもう過去のこと。 今はもう違うんだ

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

婚約者の恋

うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。 そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した! 婚約破棄? どうぞどうぞ それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい! ……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね? そんな主人公のお話。 ※異世界転生 ※エセファンタジー ※なんちゃって王室 ※なんちゃって魔法 ※婚約破棄 ※婚約解消を解消 ※みんなちょろい ※普通に日本食出てきます ※とんでも展開 ※細かいツッコミはなしでお願いします ※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

処理中です...