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「あの……」
『加奈?』
相手が加奈だとわかると、明人はブチッとインターホンを切った。そして廊下を慌ただしく走ってくる音が聞こえた。ガチャっと扉が開くと、明人は加奈の手を引き強引に部屋の中に入れた。そしてギュッと抱きしめてきた。その温もりがとても懐かしく感じられる。
「明人……」
「加奈……すまなかった!」
「あの、わかったから!腕を緩めて……」
ハッとした明人が加奈を解放した。どうやら無意識で加奈を力強く抱きしめていたようで、加奈は解放されると深く息継ぎをした。
「とりあえず……中、入っていい?」
「あ、あぁ……」
リビングへと続く長い廊下を歩きリビングに入った加奈。そこに広がる空間が懐かしかった。半月ほど前まで自分はここで明人と暮らしていたのだと思うと、なんだか胸の奥がジンとした。
「あ、あんた風邪引いたんだってね?昼間小峰さんに出会って聞いたんだ。大丈夫?」
「まだ全快ではないが、だいぶ楽にはなった……」
「そっかよかった」
こんな話をしたいが為に来たのか?そうじゃない。だが本題に入れなかった。すると明人が疑問を聞いてきた。
「加奈。どうしてここに来たんだ?」
「あんたが風邪って聞いたから心配して。だってあんたさ、家事全般出来ないし、料理とかどうしてるのかって思って」
心配したのは本当だが、こんな話をしたいわけでは……そう思っていると、明人は加奈を再び抱きしめた。いつもならここで抵抗するのに、そんな事をふと思い出してしまった。
「加奈……今までごめん」
「あんたからその言葉聞くと、明日は本当に雪でも降りそう」
「勝手に降ればいいさ。俺はお前がいなくなって寂しかった」
「うん……」
風邪のせいなのか?いつもの覇気はどこにもなく、そこには弱りきって加奈に縋る哀れな男しかいなかった。
「好きだ加奈の事。本気で好きなんだ……だから、俺の側にずっといてほしい」
こういう時だからだろうか?それとも自分の本当の気持ちに気づいたからだろうか?明人の言葉がグッと自分の心の奥に深く突き刺さる。何かが満たされる。きっとこの言葉がずっと欲しかったのだ。
「お前にいろいろ言われ、本当にどうしたらいいのかわからなかった。それに川田と付き合うって聞いた時も気が気じゃなかった」
「えっ?」
「あいつ本人がご丁寧に教えてくれたんだよ」
そんなやり取りがいつあったのだろうかと考えてしまった。だが、加奈の首筋に顔を埋めたままの明人の拘束は緩まる事がなく、少し苦しいくらいだったので、聞こうにも聞けなかった。
「加奈。俺だけのものになってくれないか?」
縋るように言う明人に加奈は何も言わず、空いていた手を明人の背に回した。
「実はね……情けないながらに、私も明人の事が好きってさっき気が付いたの」
「加奈……?」
「でも、川田君との事あるでしょ?だから明人の事は考えちゃダメって思って……でもずっと頭から放れなかった。一人で夕食とか食べてもなんか味気なかったし」
「言っただろ……?お前は俺に夢中だって。気づくのがおせぇよバーカ……」
『加奈?』
相手が加奈だとわかると、明人はブチッとインターホンを切った。そして廊下を慌ただしく走ってくる音が聞こえた。ガチャっと扉が開くと、明人は加奈の手を引き強引に部屋の中に入れた。そしてギュッと抱きしめてきた。その温もりがとても懐かしく感じられる。
「明人……」
「加奈……すまなかった!」
「あの、わかったから!腕を緩めて……」
ハッとした明人が加奈を解放した。どうやら無意識で加奈を力強く抱きしめていたようで、加奈は解放されると深く息継ぎをした。
「とりあえず……中、入っていい?」
「あ、あぁ……」
リビングへと続く長い廊下を歩きリビングに入った加奈。そこに広がる空間が懐かしかった。半月ほど前まで自分はここで明人と暮らしていたのだと思うと、なんだか胸の奥がジンとした。
「あ、あんた風邪引いたんだってね?昼間小峰さんに出会って聞いたんだ。大丈夫?」
「まだ全快ではないが、だいぶ楽にはなった……」
「そっかよかった」
こんな話をしたいが為に来たのか?そうじゃない。だが本題に入れなかった。すると明人が疑問を聞いてきた。
「加奈。どうしてここに来たんだ?」
「あんたが風邪って聞いたから心配して。だってあんたさ、家事全般出来ないし、料理とかどうしてるのかって思って」
心配したのは本当だが、こんな話をしたいわけでは……そう思っていると、明人は加奈を再び抱きしめた。いつもならここで抵抗するのに、そんな事をふと思い出してしまった。
「加奈……今までごめん」
「あんたからその言葉聞くと、明日は本当に雪でも降りそう」
「勝手に降ればいいさ。俺はお前がいなくなって寂しかった」
「うん……」
風邪のせいなのか?いつもの覇気はどこにもなく、そこには弱りきって加奈に縋る哀れな男しかいなかった。
「好きだ加奈の事。本気で好きなんだ……だから、俺の側にずっといてほしい」
こういう時だからだろうか?それとも自分の本当の気持ちに気づいたからだろうか?明人の言葉がグッと自分の心の奥に深く突き刺さる。何かが満たされる。きっとこの言葉がずっと欲しかったのだ。
「お前にいろいろ言われ、本当にどうしたらいいのかわからなかった。それに川田と付き合うって聞いた時も気が気じゃなかった」
「えっ?」
「あいつ本人がご丁寧に教えてくれたんだよ」
そんなやり取りがいつあったのだろうかと考えてしまった。だが、加奈の首筋に顔を埋めたままの明人の拘束は緩まる事がなく、少し苦しいくらいだったので、聞こうにも聞けなかった。
「加奈。俺だけのものになってくれないか?」
縋るように言う明人に加奈は何も言わず、空いていた手を明人の背に回した。
「実はね……情けないながらに、私も明人の事が好きってさっき気が付いたの」
「加奈……?」
「でも、川田君との事あるでしょ?だから明人の事は考えちゃダメって思って……でもずっと頭から放れなかった。一人で夕食とか食べてもなんか味気なかったし」
「言っただろ……?お前は俺に夢中だって。気づくのがおせぇよバーカ……」
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