王様のいいなり!

まぁ

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(未練がましい……)
 ふとそんな言葉が思い浮かんでしまった。だが加奈は今、川田と付き合っているのだから川田だけを見なくては……
 そう息巻いて気持ちを変えようとしていた。けど頭にあるのは明人の顔。そして一緒に過ごした日々ばかりだった。

「霧島さん。今日暇ですか?」
 隣にいた川田がボソッと聞いてきた。
「うん。今日は何も用事ないし大丈夫だよ」
「ならまた後で連絡しますね」
 そう言って仕事に戻った川田はニコニコと楽しそうだ。川田と二人でいるときは「加奈」と呼ぶようになった人生初の恋人は、会社ではちゃんと「霧島さん」と呼ぶ。
 ほんの数日前まではかわいい後輩だった川田が恋人となって食事に行くのは二度目だが、メールや電話など毎晩のように来ていたし、いつも隣に座っているからだろうか?さほどドキドキするという事はなかった。
「あっ、やば!三時から会議だったんだ!私これコピーして行って来るね!」
 腕に付けた時計を見て慌てて席を立った加奈に川田は「了解です」と言った。
会議資料を手にコピー室に向かった加奈。ちょうどそこで詩織と出くわした。詩織とはあの社員旅行で親交が深まったようにも感じられる。
「霧島さん。コピーですか?ちょっと待ってくださいね」
 いそいそと自分のコピーを終わらそうとする詩織にちょっと聞いてみたくなった。
「詩織ちゃん」
「何ですか?」
「その、小峰さんとは仲良くやってる?」
「えぇ。どうしたんですか?」
「いや、別に……」
 もごもごとする加奈が何を言いたいのか悟った詩織が「あぁ、南条さんの事ですか?」と聞いてきたので、未練がましいと思いながらも静かに首を縦に振った。
「いつも通りやってるってダーリン言ってましたけど、どうしてそんな事聞くんです?」
「別に深い意味はないんだけど……なんとなく。ほら、あいつって仕事は出来るみたいだけど、日常生活壊滅的に家事とか出来ないし」
「ふーん……でもいい大人なんだしなんとかやってるんじゃないですか?今までだって生きてきたんだし」
「そうだよね、うん。何気にしてるんだろね……ごめん。今の忘れて」
「わかりました」
 一瞬ため息を漏らした詩織だが、瞬時に切り替えてニコリと笑ってコピーした紙の束を手にしてコピー室から去って行った。手に持った資料をコピー機に置いた加奈は大きくため息を漏らした。
「何聞いてるんだろ……」
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